1206「陰膳カゲゼン」に座ったカナヘビ(谷内)
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
「陰膳」とは、長い旅に出ている人や遠くで働いている人のために、自分達と同じ食
事を作って供え、無事を願うことです。
確か、昭和十九年か二十年の春のことでありました。
お父さんが兵隊で太平洋戦争へ行った後、私の家では毎片食マイカタケ(食事の度毎に)、
陰膳を供えて、お父さんが元気で働いて、早く家に戻って来て下さいと言って、願って
いるのでした。
晩飯バンゲママの時であったと覚えていますが、お父さんの陰膳の脇の炉端ロバタの側の板
の間の穴から、カナヘビ(トカゲのこと)がチョロッと出て来たと思ったら、見ている
間にお父さんの大きな座布団の上まで行って、チロチロって赤い舌を出しながら、陰膳
の御馳走を眺めていたのです。私が立ち上がって追い出す気になりましたが、お母さん
が、
「止めろ止めろ、何か神様のお知らせだかも知れない。拝みましょう」
と、みんなしてカナヘビを拝みました。間もなくカナヘビは出て来た穴の中に入って居
なくなってしまったのです。あんまり不思議で、次の日に花輪のイタコ(口寄せをする
巫女ミコ)へ聞きに行きましたら、
「近いうちに、お父さんが戻って来るお知らせだ」
と言って申されました。
本当にそれから間もなく、お父さんが無事に兵隊から戻って来たのです。屋敷神の竜
神リュウジンさんか、大日ダイニチさんの五大尊ゴダイソンの神さんが、お父さんのことを守って
下さったのでしょうと、みんなして言ったものでありました。
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