41 海・江・潟を詠める和歌
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
△海ウミ・アマ・ワタ
古今わたつ海の波の千里や霞らん やかぬ塩屋にたつ煙哉
                      (和漢三才図会 五十五水 中務親王)
 
うなはらのおきゆくふねをかへれとか ひれふらしけしまつらさよ比売ヒメ
                               (萬葉集 五雑歌)
 
うなはらのねやはらこすけあまたあれば きみはわすらすわれわするれや
                                (同 十四東歌)
 
やまとには 村山有れど とりよろふ 天の香具山 のぼり立ち 国見をすれば 国原
は 煙立ちこめ 海原ウナハラは かまめ立ちたつ うまし国ぞ 蜻島アキツシマ やまとの国は
                                 (同 一雑歌)
 
あをうなはらかぜなみなびきゆくさくさ つゝむことなくふねははやけむ(同 二十)
 
△潮シホ・ウシホ
前略 神風の 伊勢の国は 奥津藻オキツモも 靡きし波に 塩気シホケのみ かをれる国に 
味アヂごり 文アヤにともしき 高照らす 日の御子ミコ(萬葉集 二挽歌)
 
わたつ海のおきつ塩あひにうかぶ淡の 消ぬ物からよる方もなし
                     (古今和歌集 十七雑 よみびとしらず)
 
△干満シホノミチヒ
潮さゐにいらこの島べこぐ船に 妹乗るらむかあらき島わを(萬葉集 一雑歌)
 
荒津アラツの海しほひしほみち時はあれど いづれの時か吾がこひざらむ(同 十七)
 
処女ヲトメらが をけに垂れたる うみをなす 長門ナガトの浦に 朝なぎに 満ち来る塩の
夕なぎに より来る波の 波塩の いや益ますに その浪の いやしくしくに 吾妹子
に 恋ひつゝ来れば 下略(同 十三雑歌)
 
△潮道シホノヤホヘ
海にますかみのたすけにかゝらずば しほのやほあひにさすらへなまし
                             (源氏物語 十三明石)
 
霞しく春のしほ路を見渡せば みどりを分る沖つしら浪
                       (千載和歌集 一春 摂政前右大臣)
 
なるみがた塩せの波にいそぐらし 浦のはまぢにかゝる旅人
                       (玉葉和歌集 八旅 大江忠成朝臣)
 
△波
あごの海の荒磯アリソの上のささら浪 吾が恋ふらくはやむ時もなし(萬葉集 十三雑歌)
 
とのぐもり雨ふる河のさざれ浪 間なくも君はおもほゆるかも
                           (同 十二古今相聞往来歌)
 
いとゞしく過ゆくかたのこひしきに うら山しくもかへるなみかな(伊勢物語 上)
 
なみとのみひとへにきけどいろみれば ゆきとはなとにまがひぬるかな(土佐日記)
 
△渚ナギサ
つくのくにのうみのなぎさにふなよそひ たしてもときにあもかめもかも
                                (萬葉集 二十)
△辺ヘ
おきへゆき辺ヘにゆきいまや妹がため 吾がすなどれるもぶしつかふな(同 四相聞)
 
淡海アフミの海ウミ辺ヘたは人知る奥つ浪 君をおきては知る人もなし
                         (萬葉集 十二古今相聞往来歌)
 
なにせんにへたのみるめを思ひけん おきつ玉もをかづく身にして
                        (後撰和歌集 十五雑 くろぬし)
 
△沖
八雲ヤクモ刺す出雲の子らが黒髪は 吉野の川のおきになづさふ(萬葉集 三挽歌)
 
ながれいづるかただにみゆぬ涙川 をきひん時やそこはしられん(古今和歌集 十物名)
 
天降アモリつく 天のかぐ山 霞立ち 春に至れば 松風に 池浪立ちて 桜花 木コのく
れしげに おき辺ベは 鴨の妻よび へつ辺ベに 味村アヂムラさわぎ 下略
                               (萬葉集 三雑歌)
 
妹がためわれ玉もとむおき辺ベなる 白玉よせこおきつ白浪(同 九雑歌)
 
我袖は塩干に見えぬ沖の石の 人こそしらね乾くまもなき
                       (千載和歌集 十二恋 二条院讃岐)
 
△灘ナダ
蘆のやのなだのしほやきいとまなみ つげの小ぐしもさゝずきにけり(伊勢物語 下)
 
昨日こそふなではせしかいさなとり ひぢきのなだを今日見つるかも(萬葉集 十七)
 
音にきゝめにはまだみぬ播磨なる 響のなだと聞はまことか(忠見集)
 
うきことに胸のみ騒ぐひゞきにはひゞきの灘もさはらざれけり(源氏物語 二十二玉鬘)
 
△瀬戸セト
千鳥鳴く佐保サホの河門カハトの瀬を広み 打橋渡す我が来とおもへば(萬葉集 四相聞)
 
天アマざかる夷ヒナの長道ナガチゆ恋ひ来れば あかしの門トより倭島ヤマトシマ見ゆ(同 三雑歌)
 
むしあけのせとの明ぼのみるおりぞ 都のこともわすられにける
                        (玉葉和歌集 八旅 平忠盛朝臣)
 
たのもしやむさけのせとをいる程は 立しらなみもよらじとぞ思ふ
                             (散木葉謌集 五羇旅)
 
由良のとを渡る舟人かぢをたえ 行へもしらぬ恋の道かな(曽禰好忠集)
 
おほしほや淡路のせとの吹わけに のぼり下りのかたほかくらん
                    (堀河院御時百首和歌 雑 権中納言匡房)
 
立かへりまたきて見よや高波を 鳴門の神やとくしづめけん
                         (扶桑残葉集 十四 加藤景範)
 
隼人ハヤビトの薩摩のせとを雲井なす 遠くも吾れは今日見つるかも(萬葉集 三雑歌)
 
△海路カイロ
海つ路ヂのなぎなむ時も渡らなむ かくたつ波に船出すべしや(萬葉集 九相聞)
 
越コシの海の 角鹿ツヌカの浜ゆ 大舟に 真梶マカヂぬき下ろし いさな取り 海路ウミヂに出
でて 下略(同 二雑歌)
 
△江エ
三津のさき浪をかしこみこもり江の 舟こぐきみのゆふかぬ島に(萬葉集 三雑歌)
 
△潟カタ
おうの海の塩干シホヒのかたの片おもひに 思ひやゆかむ道のながてを(萬葉集 四相聞)
 
若の浦に塩満ち来ればかたをなみ 葦べをさしてたづ鳴き渡る(同 六雑歌)

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