38c 短歌文法「形容詞」
 
つたな・し(拙し) (ク活)@拙マズい。下手である。例「つたなくし吾が旦暮アケクレは
 過ぎゆきて・・」「生き方のつたなかりせば真夜一人・・」「言ふことはつたなけれども
 老いびとの・・」
 A鈍ニブい。鈍ノロい。愚かである。
 B運が悪い。
 C意気地がない。卑怯である。
 
つつま・し(慎まし) (シク活)@慎重である。遠慮深い。淑シトやか。控え目である。
 例「ひと口の水のみこむとつつましや(・・鶏)」「つつましく酒はくむべし蕗味噌の
 ・・」「つつましくよりゆく心丘に来て・・」「・・果実らを選りつつ心つつましきかも」
 A恥ずかしい。気が引ける。
 
つゆ-け・し(露けし) (ク活)@露を含んでいる。湿っぽい。例「・・ここに栖む盲メシヒ
 の魚を見ればつゆけし」「つゆけきもの見当たらぬ道てんてんと金水引が・・」「・・い
 まは木立も露けかるべし」
 A涙に濡れている。涙勝ちである。
 
つれ-な・し (ク活)冷淡である。薄情である。すげない。素知らぬ顔で居る。例「・・
 街さまよへば街もつれなし」「ものいはぬつれなきかたのおん耳を・・」
 
と・し(疾し) (ク活)速い。素早い。例「・・気流疾トければ雲栖まず去る」
 
とほ・し(遠し) (ク活)@距離・時間の隔たりが,非常に離れている。例「・・あはあ
 はとしてなべて遠し「とつぎ来し家を守りて遠からぬ・・」「・・わが下り立ちぬ暁アケは
 遠かり」「・・蜜月のくさむらもとほきかな」
 A関係が薄い。疎遠だ。
 B性質・内容が似つかわしくない。
 Cぼんやりしている。
 D奥深い。
 
とほ-じろ・し(遠白し) (ク活)@雄大である。大きい。例「諏訪のうみに遠白く立
 つ流波ナガレナミ・・」
 A気品があって立派である。清浄である。例「白芥子の遠じろき摂津の国を来て・・」
 
とも・し(乏し) (シク活)@不足勝ちである。少ない。例「・・われに来る学生の日ま
 たひかりに乏し」「・・林とぼしくなれば過ぎつる」「乏しかりひぐらしのこゑ秋づき
 て」「・・田をすでに刈りて乏トモしき川音」「乏しかる冬谿タニの水を頼り来て(何のけ
 ものか・・)」
 A貧しい。
 「とぼし」とも。
 
なに-げ-な・し(何気無し) (ク活)何の考えもない。然サり気ない。例「なにげなき
 ものの静けさ秋草の・・」
 
なほ・し(直し) (ク活)@真っ直ぐだ。例「・・撓タワみしあぢさゐの戻るや直く花静ま
 りぬ」
 A平らかだ。整っていて乱れがない。
 B普通だ。
 C正しい。素直である。
 
なみだ-ぐま・し(涙ぐまし) (シク活)@感情が溢れて涙が出る程だ。涙ぐみやすい。
 例「(梅の花)泪ぐましも日本人われ」「・・戦争といふは涙ぐましき」
 A哀れである。悲しい。
 
にが・し(苦し) (ク活)@苦味がある。例「さ苦かる梅の実ひとつ啣クワへはみ・・」
 A苦々しい。快くない。面白くない。例「少年のわが日は苦し触サヤるもの・・」「・・に
 がき歓びといへど遠しも」
 B身に染みて辛い。例「・・苦くうれしきわが独ごと」
 
にほは・し(匂はし) (シク活)艶艶として美しい。色濃い感じである。例「きさらぎ
 の空の日かげの匂はしく」
 
のどけ・し(長閑けし) (ク活)気持ちや天気が麗ウラらかだ。穏やかだ。ゆったりとし
 ている。例「春の海路のどけし船ながら・・」
 
はか-な・し(果無し・果敢無し・儚い) (ク活)@確かでない。頼りない。空しい。
 あっけない。例「・・草蜻蛉クサカゲロフの飛ぶもはかなし」「ゆく秋のわが身せつなく儚く
 て・・」「・・はかなかりけり海に来りて」「・・言ひて見るともはかなかるもの」「・・文
 字のこと歌のことはかなけれども」
 A執るに足りない。一寸したことだ。例「・・インクつきし指はかなきことにしばしこ
 だはる」
 
はがゆ・し(歯痒し) (ク活)焦ジれったい。もどかしい。苛立たしい。例「・・心はが
 ゆし春のくもりに」「運命に従順に見えてはがゆしと・・」
 
はなばな・し(花花し・華華しい) (シク活)華やかである。派手である。見事であ
 る。例「華々しく悪をば積みてたぢろがぬ・・」
 
はや・し(早し・速し) (ク活)@速度が急だ。例「・・新しき組織の動きは速し」「・・
 憎む日はやく到りけるかも」
 A風や脈などが激しい。
 B理解などが鋭い。
 C時期・時刻が以前だ。初めである。例「季に早き苺イチゴ真紅に盛られゐて・・」
 D期間が短い。
 Eその時刻に至らない。
 
はる-け・し(遥けし) (ク活)@距離・時間が遥かだ。遠い。例「・・来にしこしかた
 或ははるけし」「はるけくも峡ハザマの山に燃ゆる火の・・」「雲は垂り行遥けかる道の
 すゑ・・」
 A心理的に遠く感じられる。例「少年の日のはるけかりわがうゑし杉山・・」
 
ひさ・し(久し) (シク活)@時間が長い。長久である。例「川上に橋かかりをり久し
 くも・・」「・・ままならぬ心おぼえつつ久しかりけり」
 Aある事をするのに,多くの時間を要する。長くかかる。例「落石オツイシの入江をすぎ
 てやや久し・・」「寒ぼけの久しき蕾さく見れば・・」
 B久し振りである。
 
ひそけ・し (ク活)窃かである。目立たぬように,もの寂しい様子。例「・・身まかりぬ
 ればあはれひそけし」「(柿あまた)植ゑてひそけく住みふりし村」「・・ひそけき辻
 に石は彫られぬ」
 
ひも・じ (シク活)腹が空いている。空腹である。ひだるい。例「・・妻子らをひもじか
 らせじ吾が妻子らを」「・・ひもじかりせば鍋に物煮る」「・・ひもじき心埋めむとして
 」
 
ひろ・し(広し) (ク活)@広い。広大である。広々している。例「(日の出)陰立ち
 て広しキャベツの畑」「この家の庭広くして霜柱・・」
 A広く行き渡っている。例「(冬野・・)ひろき曇に天眼テンガン移る」
 B大様オオヨウだ。寛容だ。
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