37d 短歌文法「動詞」
しき・る(頻る) (自動・四)度重なる。間を置かずにずっと続く。頻りに・・する。例
「・・子に向ふ夜を虫が音ネしきる」「星空のはてより木の葉降りしきり・・」「・・鈴虫の
鳴きしきるかな月青き海」
しぞ・く(退く) (自動・四)退シリゾく。例「あかあかと雲は遠べに退シゾきゐぬ・・」
「近き雲静かに退く雲海に・・」
しだ・く (他動・四)荒らす。踏みつぶす。にじる。砕く。押し潰す。例「葛の花踏み
しだかれて色あたらし・・」「汗あえつつ木の根岩根を踏みしだき・・」「・・吻ひしだく
ものは牛の仔なれど」
しづ・く (他動・四)@水底に沈んで落ち着いている。例「(紅葉の温泉)水の中には
しづくしろ石」
A水面に映って見える。
しづ・る (自動・下二)木の枝などから積もった雪が擦り落ちる。例「(雪降り)たま
さかにしづれせしなり馬酔木アシビの揺れて」「・・雪しづれつつ丹後春なり」「硝子戸
の桟より雪のしづるるに・・」
しの・ぐ(凌ぐ) (他動・四)@押さえ付ける。踏み分けて進む。
A耐え忍ぶ。例「生き凌ぎて卑吝ヒリンにおちずある父を・・」「・・みせかけの円満もある
生きしのぐため」「雨つゆを凌げば足るといきほひし・・」
B障害・困難を乗り越える。
C相手を越える。
しの・ぶ(偲ぶ) (他動・四)思い慕う。恋う。懐かしむ。「しぬぶ」とも。例「祖先
ミオヤらを遠くしぬぶは四方山ヨモヤマも・・」「暑かりし夏しぬばむと坐りをる・・」「・・見す
ゑぬ元禄のころをしのびて」「(くちなしの花)老舎しのぶにこころ霜なす」「二十
年経て人を偲べばおのづから・・」「(紅梅・・)匂ひは過ぎしひとしのべとぞ」
し-ぶく(繁吹く) (自動・四)風混じりに激しく小雨が降り注ぐ。激しく吹き付け
る。飛沫シブキが上がる。例「・・蒼き一夜の雨降りしぶく」「・・梅雨のしぶかひも昨日
キソのごとしも」「朝の雨砂利ザリにしぶきて降れるとき・・」「宵闇の空よりしぶく秋雨
は・・」「(滝つ瀬)落ち来る水の空にしぶけり」
しみ-ふ・る(繁降る) (自動・四)頻りに降る。暇なく降る。例「・・時雨しみ降るゆ
ふべとなりぬ」
し・む(沁む) (自動・四)沁みる。深く感じる。心に深く止まる。例「・・法師蝉のこ
ゑ命にぞ沁む」「・・雪夜はまして身に沁みにけり」「(鴨)つばさ打ち振れるそのひ
たすらも心沁むもの」
しめ・る(湿る) (自動・四)@潤う。湿気を帯びる。例「雨やみぬしめらひふかきあ
ぢさひの(花を・・)」「手をとりて湿る夜道に立ちたりき・・」
A心が沈む。しんみりとする。
しら・む(白む) (自動・四)@白くなる。明るくなる。例「(虫の音終わり)草むら
の根にあかつき白む」「・・われに尾花の髪白みそむ」「木がくれは月代ならむしらむ
いろ・・」「(皆既食の夜)さかる梅花の一樹白めり」
A衰える。弱まる。
す・う(据う) (他動・下二)@物をしっかりと置く。また,置き並べる。例「七夕の
笹をきりきて据ゑたれば・・」「みどり児を間に据うる平衡の・・」
A落ち着ける。
Bある地位に就かせる。
C坐らせる。
D鳥などを止まらせる。
す-が・る(末枯る) (自動・下二)盛りが過ぎて衰える。例「(返り咲きのつつじ)
すがれむとする草にこもりて」「すがれはてて見るかげもなき朝顔の・・」「(羊歯)
雨ふらぬ夏ふけてはやも素枯るるらむか」
すさ・ぶ(荒ぶ・進ぶ・遊ぶ) (自動・四)@気持ちが荒れる。粗雑になる。例「荒ぶ
まで明けの木群に鳴きたつる(尾長)」
A勢いが激しくなる。いよいよ進む。例「・・木枯の吹きすさびつつ夕づきにけり」
B興じる。例「・・ほそき蛇遊スサべる地ツチに命恋ひをり」
「すさむ」とも。
ず-・す(誦す) (他動・サ変)声を出して読む。口ずさむ。例「(死別)歎異タンイ抄セウ
を誦ズしまつりつつ」「(フランス語の)動詞変化を誦ズしゐるけはひ」
すた・る(廃る) (自動・下二)@用いられなくなる。無用となる。例「廃れたる灯台
をつつむ無機質に・・」
A衰える。
B流行らなくなる。
せ・く(急く) (自動・四)@早く物事をしたいと思って心が苛立つ。
A息などが激しくなる。例「夜となりていのち急くかな瀬を奔ハシる・・」
せ・く(咳く) (自動・四)咳セキをする。例「・・この夜ヨハに咳きつつ風邪をひきふして
をり」
せ・む(迫む) (自動・下二)押し詰まる。迫る。押し掛ける。近付く。例「・・この山
に迫むるがごとく雪は降りこむ」
そぐ・ふ (自動・四)釣り合う。適当である。よく似合う。例「そぐはざる服着くるご
とさびしみて・・」
そそ・ぐ(注ぐ・潅ぐ) (自動・四)@雨・雪などが降り懸かる。例「・・雪清浄に身に
ふりそそぐ」「盛り過ぎし紫陽花アヂサヒに雨そそぎゐる・・」「・・雨そそげども冴えむ葉
もなし」
A涙が頻シキりに落ちる。例「涙こそ清らにそそがれ死にゆける・・」
B風が吹き掛かる。
C流れ込む。
(他動・四)@流し込む。例「洋酒注ぐグラスの氷りりと鳴り・・」
A掛ける。例「(夏の熱い石)手桶の水をみなそそぐべく」「墓石に水をそそげば痩
せし蜘蛛・・」
B集中する。
そそ・る (自動・四)聳える。高く聳え立つ。例「(朴の花)絶唱のごと蕊シベそそり
たち」「天そそる赤松の秀ホにまひくだる・・」
(他動・四)@揺り動かす。例「(万樹バンジュの落葉)空の沈黙シジマをうちそそれど
も」
A人の気持ちを掻き立てる。例「・・子らが体熱さびしさそそる」「・・夕風は一夏の悔
をそそるがごとし」
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