36c 短歌文法「副詞」
 
しかす-が-に(然すがに) しかしながら。そうは言うものの。流石に。例「しかすが
 に彼岸ともなれば活けてある・・」「日のてる外を歩みきたりつしかすがに・・」
 
しく-しく(頻頻) 続いて。絶えず。頻りに。「しくしくに」とも。例「秋雨のしくし
 くそそぐ竹垣に・・」「寄る波の八重しくしくにうち白む・・」
 
しじ-に(繁に) しげく。数多く。ぎっしり。一杯に。例「蜘蛛の巣のしじにからみて
 朝な朝な・・」「泪こそしじに湧きいづ独居の・・」「(落葉)桜はしじに葉を散らすな
 り」
 
しと-ど ひどく濡れるさま。口語で,びっしょり。じとじと,の意。例「しとど降る雨
 に打たれて若葉みな・・」「・・すゝきも濡れつ雨にしとゞに」「足袋しとど濡らして雨
 の交差点・・」「箱根路ヂを汗もしとどに越えくれば・・」「(山里の稲刈り)いまだも
 あをし露しとどなる」
 
しばし(暫し) 少しの間。一寸の間。暫く。「しまし」とも。例「今しばし麦うごか
 してゐる風を・・」「(子どもの声)暫時シバシ聞きゐつ今は独りなり」「定年ののちの
 いのちにしばしだに・・」「母が目をしまし離カれ来て目守マモりたり・・」「・・母と気付き
 ししばしの歩み」
 
しばらく(暫く) 少しの間。暫し。「しまらく」とも。例「ややしばらく竹の下道の
 ぼりゆけば・・」「入日イリヒおちてしばらたちたり海の上ヘに・・」
 
しみ-じみ @深く心に沁みるさま。口語で,つくづく,の意。例「・・君に問ひつつしみ
 じみ悔ゆる」「・・老いし顔しみじみよろし船あやつりて」
 A物静かで落ち着いているさま。口語で,しんみり,の意。例「・・子をおもひよりし
 みじみとしも雨ふるものか」
 
しゆ-ゆ(須臾) 暫く。暫し。少しの間。僅かの間。例「・・降り出でし雪も須臾にして
 やむ」「・・須臾にきららに夕日こぼして」
 
しら−しら(白白)@如何にも白い感じであるさま。例「しらしらと刈萱カルカヤの穂の出
 でしより・・」
 A夜が次第に明けて行くさま。例「しらじらと硝子戸とほる光あり・・」
 B明るいさま。例「しらしらと氷かがやき千鳥なく・・」「(夜の月・・)しらじらとし
 て川遠くゆく」「たどり来し道しらじらとみゆるとき・・」
 Cひっそりと淡い感じであるさま。例「まはだかの心にふれてしらじらと(雪の夜)
 」
 「しらじら」とも。
 
すが-すが(清清) 爽やかで気持ちが良いさま。例「この夜更けわが寝間にまですがす
 がと(秣マグサの匂い)」「清々と白くぬりたる帆船ハンセンに・・」「綱ひけば音すがすが
 と鈴ぞ鳴る(松風の宮)」「(記憶の中の君の声)すがすがとして今宵堪へがたし」
 
すで-に(既に・已に)@残らず。すっかり。全く。例「木下道すでにかげりて蜩ヒグラシ
 の声・・」
 A最早。もう。とっくに。例「・・児のすでに寝息の静けき見れば」「(鰯の臭気)既
 にしたしき此の市なり」
 B先に。以前から。例「(桔梗を活ける)冴えたる秋は既にふふめり(潜んでいた)
 」
 
せ-に(塞に・狭に) 形容詞「狭セし」の語幹に助詞「に」が連なったもの。狭い程に。
 一杯になる位に。塞がる程に。例「庭もせにくれなゐふかき松葉菊・・」「庭もせに胡
 桃の落葉ちりしきて・・」「道もせにしげりたわめる青桑の・・」「・・虫のこゑ道もせに
 して頻りに鳴くも」
 
たか-だか(高高)@目立って高い位置にあるさま。例「ここにして飛騨のむら山たかだ
 かに・・」「さく花の雲垣のうへにたかだかと・・」
 A音や声が大きいさま。例「たかだかと繭の荷車を押す人の・・」
 
ただ(唯・只) @他に何もなく。こればかり。単に。例「神よただこれのみ願ふこと
 さらに(死)」
 Aひたすら。例「・・わが飯とただに粥食ふ小さき主人アルジ」「・・湧く雲のゆゆしき動
 きただに見てをり」「(わが子ども)ただにかけゆき遊び狂へる」
 Bほんの。たった。例「只しばしかりのやどりと思ひしに・・」「ただ一首の歌にその
 名をとどめたる・・」「ただひと目君を見しゆゑ三味線の絃イトよりほそく・・」
 
たま-たま(偶)@偶然に。丁度その時。思いがけずに。例「(・・雲とわが胸と)たまた
 まあひぬ静かなる日や」
 A稀に。偶タマに。時おり。例「たまたまに障子をあけて吹き通す・・」「たまたまに手
 などに触れつつ添ひ歩む・・」「・・雪の舞ふたまたまは日に煌キラメきたちて」
 
たま-ゆら(玉響)@暫し。暫くの間。瞬間。例「写真撮るたまゆらの間もゆきすぐる・・
 」「雫シヅクするたまゆらなれや垂氷秀ホに・・」
 A微かに。ちらりと。例「山にきてたまゆら父のはればれしを・・」「たまゆらに眠り
 しかなや走りたる(汽車)」
 
ぢき(直) 直ちに。直ぐさま。例「(省線に乗る)ぢきにとろとろと眠くなる」
 
つくづく(熟)@じっと思いを凝らすさま。口語で,よくよく。じっくりと,の意。例
 「(樋の音)つくづくきけば弾みと鳴れり」「(落ち葉)つくづくと見る土曜日の午
 後」
 A深く感ずるさま。口語で,身に沁みて。しみじみ,の意。例「つくづくと昨日キノフの
 園のゆふぐれの・・」
 B物寂しく,なすこともなくぼんやりとしているさま。口語で,つくねんと,の意。
 例「つくづくと炉ばたに坐る朝ひとり・・」
 
つひ-に(終に・遂に)@長い経緯イキサツや時の後に。とうとう。例「つひにして身をかへ
 り来る憤り・・」「(冬の庭)撫子の花もつひにしぼみぬ」
 A打消を下に伴って,口語で,最後まで。未だ一度も,の意。例「風凪ナぎぬ遂にいふ
 べきことことはいはで(別れ)」「我さへや遂に来コざらむ年月の・・」
 
つぶさ-に(具に・備に)@漏れなく。悉く。例「(山峡)植物の葉のつぶさに青し」
 A細かに詳しく。詳ツマビらかに。例「夕影につぶさに見れば花ながら・・」「山木木の
 芽ぶきの遅速つぶさにも・・」
[次へ進んで下さい]