36 短歌文法「副詞」
 
              短歌文法「副詞」
 
                      参考:飯塚書店発行「短歌文法辞典」
 
〈副詞〉
 
 動詞,形容詞,形容動詞を修飾する。
 
あさな-あさな(朝な朝な) 毎朝毎朝。「あさなさな」とも言う。例「この三朝ミアサあ
 さなあさなをよそほひし・・」「朝な朝なつゆじも深しくさむらに・・」「朝なさな露の
 寒さにわが園の・・」
 
あさな-ゆふな(朝な夕な) 朝に夕に。毎朝毎夕。あけくれ。例「帰り来て朝な夕なに
 わが歩く・・」「山狭に朝なゆふなに人居りて・・」
 
あさに-けに(朝に日に) 朝毎に。朝も昼も。何時も。日に日に。「あさなけに」「あ
 さにひに」とも。例「朝にけに心たのしく乗る記者の・・」「(男体山の清水)朝にけ
 に飲む人の羨トモしも」「・・梅の落葉はあさにけに散る」
 
あたか-も(恰も)@まるで。丁度。さながら。
 A丁度その時。例「富士が根の上ウヘにしありて時あたかも・・」「峠越しあたかも対ふ
 夕つ日は・・」
 
あに(豈)@下の打消語で結んで,口語で,なにも。なんら。決して,の意。例「・・硬
 コハき飯イヒはむ豈うまからず」
 A下に反語を伴って,口語で,どうして。なんで,の意。例「(うなゐ児の柔手)触
 れじとするも豈堪へめやも」「・・あに生業ナリワヒのなき父たりなむや」
 
あまた(数多)@数多く。沢山。例「蜂あまたこねる音して珊瑚樹サンゴジュの・・」「(降
 雪)あまたもつもるけしきなりけり」
 A打消を伴って,口語で,たいして。それ程には,の意。例「命もて守らむものはあ
 またあらじ・・」「(雨の夜のこほろぎ)あまたは鳴かず竈クドのべに鳴く」
 
あまた-たび(幾多度) 何度も。度々。何遍も。例「・・あまたたび夕鳥の声は裂けたる
 」「あまたたび冬には逢へど枯れざりし(庭のオダマキ)」
 
あまり(余り) 度が過ぎて。甚だ。あんまり。余りに。例「・・わが母のあまり悲しく
 あまりやさしく」
 
あや-に(奇に)@不思議に。驚く程。無性に。訳もなく。例「聲にいでてしばし読むほ
 どあやにあやに(気息キソクととのふ竹乃里歌)」「・・ことばすくなし兄弟ハラカラのあやに
 さびしきおもひをぞする」
 
あり-あり はっきり。明らかに。目に見えるように。まざまざ。例「(月のおも影)あ
 りありみえて遠くゆく魂」「苦しみの跡ありありと・・」「傷つかぬもの一人だになし
 ありありと哀しみを・・」
 
いか-で(如何で) 「如何にして」の転。@疑問,反語を表す。口語で,どのようにし
 て。どう云う訳で,の意。例「・・父の臨終イマハにいかであふべし」「・・うちしほれ行く
 を妹といかでおもはむ」
 A願望を表す。口語で,なんとかして。どうにかして,の意。例「・・君の心をいかで
 知らまし」
 
いか-に(如何に)@疑問を表す。口語で,どんなふうに。どのように,の意。例「いか
 にせむ道はまどひぬ日はくれぬ・・」「いかにかもせむ此の侘びしさや花終り・・」
 A推測を表す。口語で,どんなにか,の意。例「・・みち行く人いかにさびしかるらむ
 」
 B程度を表す。口語で,どれ程,の意。例「・・その一言のいかにうれしき」
 
いく-そ-たび(幾十度) 副詞「いくそ」(数量を問う意)に名詞「たび」(回数を表
 す語)を連ねた語。口語で,幾度。何度も。数十回,の意。例「いくそたびこの苦し
 みをかさねばな・・」「あはや爆ハぜむ大き怒りをいくそたび堪へしことぞ・・」
 
いささか(些か) 量や程度の少なさを強調する語。@ほんの少し。極ゴク僅か。例「吸
 物にいささか泛ウけし柚子の皮の・・」「波の秀ホは既にいささか覆クツガヘりたれど・・」「
 いささかの料シロを枕辺に置き来しが・・」
 A下に打消の語を伴って,口語で,全く。少しも,の意。例「いささかの愁もあらで
 たゞ動く(わが海)」
 
いそ-いそ 嬉しいことがあるため,動作が調子付いている様子。例「いそいそと廣告燈
 も廻るなり・・」「・・また一時はいそいそとしぬ」「妻子等もいそいそとして歩みをり
 ・・」
 
いたく(甚く) 形容詞「いたし」の連用形からの転。甚だしく。非常に。酷ヒドく。大
 層。「いたも」とも。例「・・サフランの二うねいたく匂ひたちり」「(・・八年を)経
 て見る君はいたく素直なり」「(・・芒の穂)いたも白シラめる空気のひびき」「(風の
 音)いたくやさしく思ふことあり」
 
いつ-か(何時か)@何時だとは決まらないが,望む気持ちを込めて用いる。口語で,そ
 のうちに。何れ,の意。例「又いつか青山の町に住みたしと言ひ・・」
 A不審フシンがる気持ちを込めて用いる。口語で,何時の間にか。知らぬうちに,の意。
 例「・・拾ひし橡トチもいつか落せる」「よもぎ畑いつかのびたり吹く風に・・」
 B反語を表して,口語で,何時の時に。一体何時・・か,の意。例「・・ふもとのあたり
 いつか過ぐらむ」
 
いつ-も(何時も) 何時でも。常に。例「(・・草花の)山羊に食はれていつもをさなし
 」
 
いと @下に形容詞,或いは状態を表す動詞を伴って,口語で,極めて。非常に。大層,
 の意。例「いと暗き・・」
 A下に名詞,形容動詞,副詞を伴って,口語で,全く。実に,の意。「・・いとさやか
 にも来し方ぞ見ゆ」「その如くいとやすやすと与へたる・・」「いとせめて只一時をな
 ぐさめの・・」
 
いと-ど 「いといと」の転。@いよいよ。益々。例「風いとど埃を吹くやおろかしく・・
 」「御相ミソウいとどしたしみやすきなつかしき・・」
 A只でさえ。元より。
 
いはれ-な-に(謂無に) 訳もなく。理由なく。例「いはれ無ナに涙がちなるこのごろを
 ・・」
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