25 植物を詠める和歌[草/菅〜百合〜二葉葵]
参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
△菅スゲ
やたの ひともとすげは こもたず たちかあれなむ あたらすがはら ことをこそ
すげはらといはめ あたらすがしめ(古事記 下仁徳 天皇御製)
答
やたの ひともとすげは ひとりをりとも おほきみし よしときこさば ひとりをり
とも(同 八田若郎女)
橋立ハシダテの倉椅川クラハシガハの河静菅カハシヅスゲ わが苅りて笠にも編まず河静菅
(萬葉集 七雑歌)
三島菅いまだ苗なり時待たば 著キずやなりなむ三島菅笠スガガサ
み吉野ヨシヌのみぐまが菅を編まなくに 刈りのみ苅りて乱りなむとや
(以上、萬葉集 十一古今相聞往来歌)
みなとのやあしがなかなるたまこすげ かりこわがせことこのへだしに
(萬葉集 十四東歌)
△三稜草ミクリ
恋すてふさやまの池のみくりこそ 引ば絶すれ我やねたゆか(古今和歌六帖 六)
しらずとも尋てしらんみしま江に おふるみくりのすぢはたえじを
御返
かずならぬみくりやなにのすぢなれば うきにしもかくねをとゞめけん
(以上、源氏物語 二十二玉鬘)
あふみにかありと云なるみくりくる 人くるしめのつくま江の沼
(後拾遺和歌集 十一恋 藤原道信朝臣)
△芋
蓮葉ハチスバはかくこそ有れもおきまろが 家なる物はうもの葉に有らし
(萬葉集 十六有由縁並雑歌)
このいもははゝいかばかりはかるらん にたる子どもをみるにつけても
(精進魚類物語)
△蒟蒻コンニャク・コニャク
野をみれば春めきにけり青つゞら こにやくまゝしわかなつむべく
(拾遺和歌集 七物名 すけみ)
△水萍ウキクサ
侘ぬれば身をうき草のねを絶て さそふ水あらばいなんとぞ思ふ(小町集)
ねをたへて水にうかべる浮草は 池のふかさをたのむなるべし(伊勢集 上)
△鴨跖草ツキクサ・ツユクサ
月草のうつろひやすく念へかも 我がもふ人の事も告げこぬ
(萬葉集 四相聞 大伴宿禰家持)
月草に衣ぞ染むる君がため まだらの衣摺らむと念ひて(萬葉集 七雑歌)
△水葱ナギ
醤酢ヒシホスに蒜ヒルつきかてゝ鯛もがも 吾れにな見せそ水葱ナギの煮物アツモノ
(萬葉集 十六有由縁並雑歌)
春霞春日のさとのうゑこ水葱 苗有りと云ひしえはさしにけむ
(萬葉集 三譬喩歌 大伴宿禰駿河麻呂)
かみつけぬいかほのぬまにうゑこなぎ かくこひむとやたねもとめけむ
なはしろのこなぎがはなをきぬにすり なるゝまにまにあぜかかなしけ
(以上、萬葉集 十四東歌)
露むすび田中の井どのなぎの葉に 光さしそふ夕づくひ哉(新撰六帖 六 為家)
たなかのゐどに ひかれるたなぎ つめつめあこめ 田中のこあこめ たらりらり た
なかのこあこめ(催馬楽)
△百合
夏野ナツノヌに繁見にさける姫ゆりの 知らえぬ恋は苦しきものを(萬葉集 八夏相聞)
あぶらびのひかりに見ゆるわがかづら さゆりのはなのゑまはしきかも
ともしびのひかりに見ゆるさゆりばな ゆりもあはむとおもひそめてき
さゆりばなゆりもあはむとおもへこそ いまのまさかもうるはしみすれ
(以上、萬葉集 十八)
△山慈姑サンジコ・カタカゴ・カタクリ
物部モノノフの八十ヤソのをとめがくみまかふ 寺井のうえの堅香子カタカゴの花
(萬葉集 十九)
小車の諸輪にかくるかたかゞの いづれもつよき人心かな
(茅窓漫画録 上(萬葉集))
△葱ネギ・ヒトモジ・うつぼ草
引見れば根は白糸のうつぼ草 ひともじなれど数の多さよ(物類称呼 三生植)
紅葉せで秋も萌黄のうつぼ草 露なき玉とみゆる月哉
恋といふ一もじゆへにいかにして かきやる文のかず尽すらん
(以上、七十一番歌合 中)
△韮ニラ・フタモジ・ミラ
みつみつし 久米のこらが あはふには かみらひともと そねがもと そねめつなぎ
て うちてしやまむ(古事記 中神祇)
△蒜ヒル・ニモジ
さゝがにのふるまひしるき夕暮に ひるますぐせといふがあやなさ
逢ことのよをしへだてぬ中ならば ひるまもなにかまばゆからまし
(以上、源氏物語 二帚木)
君がかすよるのころもをたなばたは かへしやしつるひるくさしとて
(後拾遺和歌集 二十誹諧 皇太后宮陸奥)
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