21 茶花萬葉抄/萬葉植物
茶花萬葉抄/萬葉植物 ※印:茶花に用いられるもの
本稿は,神田神保町の古本屋で買い求めま
した,河原書店刊「茶花萬葉抄」を参考にさ
せていただきました。当該図書は,昭和33年
秋に出版された,比較的古いものです。とい
うことは,萬葉集の中から,「萬葉の時代か
ら今日に受け継がれてきた植物」として捉え
たものとしては,当時としては斬新的な試み
ではなかったでしょうか。
山野を彷徨しながら,あるいは,床の一輪
挿しに生けられた草花を眺めながら,遠い古
を偲んでみて下さい。 SYSOP
茜あかね
あかねさす紫野行き標野ゆき 野守は見ずや君が袖振る 額田王
麻あさ※
あさころも着ればなつかし紀の国の 妹背の山に麻まく吾妹
桔梗あさがほ※
あさかほは朝露おいて咲くといへど 夕かげにこそさきまさりけれ 讀人不知
葦あし※
あしべゆく鴨の羽がひに霜ふりて 寒き夕べは大和しおもほゆ 志貴皇子
葦附あしつき
雄神河くれなゐ匂ふ少女らし 葦附取ると瀬に立たすらし 大伴家持
馬酔木あしび
磯かげの見ゆる池水照るまでに 咲ける馬酔木の散らまく惜しも 甘南備 伊香真人
紫陽花あぢじさゐ※
紫陽花の八重咲く如くやつ世にを いませわが背子みつつしぬばむ 橘諸兄
梓あづさ
梓弓ひきてゆるさぬますらをや 恋といふものを忍びかねてむ
粟あは
千早ぶる神の社しなかりせば 春日の野べに粟まかましを 娘子
あふち
珠にぬくあふちの家に植えたらば 山ほととぎすかれず来むかも 大伴家持
葵あふひ
梨なつめ黍に粟つぎはふくずの 後も逢はむと葵花咲く
阿倍橘あべたちばな
わぎも子に逢はず久しもうきしもの 阿倍橘の蘿ツタむすまでに
菖蒲あやめ
ほととぎす待てど来喧かず菖蒲草 玉に貫く日をいまだ遠みか 大伴家持
青菜あをな
食薦敷きあをなに持ち来梁に むかばき掛けて休む此の君
いちし
路の辺のいちしの花のいちじろく 人皆知りぬ我が恋妻は
櫟いちゐ
・・・・・・あしひきの 此の片山に 二つ立つ 櫟が本に梓弓八手挟み・・・・・・
稲いね
稲つけば皹ヒビる我手を今宵もか 殿の稚子が取りて嘆かむ
いわいづら
入間道の大家が原の伊波為都良 引かばぬるぬる吾にな絶えそね
うきまなご
解衣の恋ひ乱れつつ浮まなご 生きても吾は恋ひわたるかも
うけら※
恋しけば袖も振らむを武蔵野の うけらが花の色にでなゆめ
卯花うのはな※
五月山うのはな月夜ほととぎす きけどもあかずまた鳴かぬかも
屎葛・嫁菜うはぎ(莵芽木)※
春日野に煙り立つ見ゆおとめらし はる野のうはぎみて煮らしも
うばら
道のべのうまらの末にはほ豆の からまるきみを離れかゆかむ 丈部鳥
梅うめ※
春さればまづ咲く宿のうめの花 ひとり見つつや春日ハルヒくらさむ 山上憶良
今日ふりし雪に競ひて我がにはの 冬木の梅は花咲きにけり 大伴家持
うも
蓮葉はかくこそあるもの意吉麿か 家なるものはうもの葉にあらし 長忌生意吉麿
瓜うり
・・・・・・瓜食めば子ども思ほゆ 栗はめば ましてしのばゆ・・・・・・ 山上憶良
榎えのき
わが門の榎の実もり食む百千鳥 千鳥は来れど君ぞ来まさぬ
大藺草おほいぐさ※
上つ毛野伊奈良の沼のおほい草 よそに見し世は今こそまされ 柿本人麿
臣木おみのき
・・・・・・み湯の上の樹むらを見れば 臣の木も 生ひ継ぎにけり・・・・・・ 山部赤人
思草おもひぐさ
道の辺の尾花か下の思草 今更になぞ物か念はむ
杜若かきつばた※
かきつばた衣に摺りつけますらをの きそひかりする月は来にけり 大伴家持
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