20c 京都歳時記[花鳥風月]その一
 
〈五月〉
 
△五月
 五月待つ山郭公ヤマホトトギスうちはぶき 今も鳴かなん去年コゾの古声(古今集)
                                  読人知らず
 いつの間に五月来ぬらんあしひきの 山郭公今ぞ鳴くなる(古今集) 読人知らず
 
△首夏・初夏
 花鳥も皆ゆきかひてむばたまの 夜の間にけふの夏は来にけり 紀貫之
 
△郭公
 ゆきやらで山路くらしつほととぎす 今一声の聞かまほしさに 源公忠
 小夜ふけてねざめざりせばほととぎす 人づてにこそきくべかりけれ 壬生忠見
 
△あやめ
 打しめりあやめぞ香る郭公ホトトギス 鳴くや五月の雨の夕暮(新古今集) 藤原良経
 何事とあやめはわかで今日も猶 袂タモトにあまるねこそ絶えせね(新古今集)紫式部
 
△橘
 五月サツキ待つ花橘の香をかげば 昔の人の袖の香ぞする(古今集) 読人知らず
 誰かまた花橘に思ひ出イでん 我も昔の人となりなば(新古今集) 藤原俊成
 
△牡丹
 むらさきの露さへ野辺のふかみ草 たがすみすてし庭のまがきぞ 藤原家隆
 夏木立庭の野すぢの石のうへに みちて色こきふかみ草かな 慈鎮
 
△青葉
 散りにける花のふるすはこがくれて 青葉の山にまよふうぐひす 後一条入道関白
 今はまた花も嵐も夏山に 青葉まじりの峰の白雲 藤原家隆
 
△葵祭アオイマツリ
 雲井よりたつるつかひに葵草 いくとせかけつ賀茂の川波 後京極摂政
 雲の上をいづるつかひのもろかづら むかふ日かげにかざす今日かな 藤原定家
 
カキツバタ カキツバタは北区上賀茂本山の大田沢には古代から野生し,五月に径12p
 程の濃紫色の花が咲き,国の天然記念物に指定されています。また,其処から東の方
 へ700m程行きますと深泥池ミゾロガイケがあり,此処の浮島には白のカキツバタが多い。
 右京区梅津フケノ川町の梅宮大社の庭の大きな池にも種々のカキツバタがあります。
 花が大きく美しいので歌や絵画,文様などに用いられました。わが国全土・朝鮮・中
 国東北部・東シベリアに野生します。
 
 神山や大田沢のかきつばた ふかきたのみは色に見ゆらん 藤原俊成
 
カキツバタの説話
 三河国の八橋ヤツハシと云う処がありました。その地は川が蜘蛛の形に分かれて,八つの
橋が架かっていたので,そう呼ばれているのです。在原業平がこの八橋の地に着いて,
沢辺の木陰において乾食カレイイを出し,旅の食事を摂りました。見ますと小川の辺ホトリに見
事なカキツバタが咲き匂っています。連れの人々が業平に和歌を強請ネダりました。「か
きつばたと云う五文字を,五七五七七の各句の頭毎に据えて,旅の心を詠んで下さい」
と云います。そこで一首「から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをし
ぞ思ふ」。人々はこれを聞いて旅愁が胸に迫り,はらはらと涙をこぼしました。その涙
が乾食に掛かり,乾燥した米がふっくらとしたと云います。この説話は「伊勢物語」で
有名ですが,「今昔コンジャク物語」にも載せられ,主人公は業平とされています。
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