2001a 京都歳時記[花鳥風月]その二
 
〈八月〉
 
△稲妻
 有明の月待つ宿の袖のうへに 人だのめなる宵の稲妻(新古今集) 藤原家隆
 風渡る浅茅アサジが末の露にだに やどりもはてぬ宵の稲妻(新古今集) 藤原有家
 
△蝉
 秋近きけしきの杜モリに鳴く蝉の 涙の露や下葉そむらん(新古今集) 藤原良経
 鳴く蝉の声も涼しき夕暮れに 秋をかけたる杜モリの下露(新古今集) 二条院讃岐
 
△夕顔
 白露の情おきける言の葉や ほのぼの見えし夕顔の花(新古今集) 藤原頼実
 
△晩夏
 夏果つる扇と秋の白露と いずれかまづはおかむとすらん(新古今集) 壬生忠岑
 ねぎこともきかであらぶる神たちも 今日はなごしと人はいふなり 源順
 
△立秋前夜
 行く水のうへにいはへる河やしろ 河浪高く遊ぶなるかな 紀貫之
 
△立秋
 秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる(古今集)藤原敏行
 
△初秋
 木コの間よりもりくる月の影見れば 心づくしの秋は来にけり(古今集) 読人知らず
 吹く風の色こそみえね高砂の おのへの松に秋は来にけり(新古今集) 藤原秀能
 
△乞巧奠キコウデン
 七夕のと渡る舟の梶のはに 幾秋かきつ露の玉章タマズサ 藤原俊成
 
ミヤギノハギ ハギは日本人好みで,「万葉」の秋の七草の一つです。中国にもハギ属
 の植物はありますが観賞しません。日本人には,花が小さいが多数付き,自由に枝が
 伸びて咲き乱れる姿が美しい。ハギの中でも早く咲くのはミヤギノハギで六月から九
 月にかけて咲き,萼裂片の先が細長く尖って,萼筒より長いのが特徴です。京都にお
 いても庭によく栽培されています。本州の原産ですが,関東地方や仙台付近には野生
 していません。「大和本草」(1709)に「宮城野ハギ、其花最もよし」とあって古く
 から観賞されていました。
 
エンジュ 京都市内の街路樹にはイチョウ,モミジバスズカケ,トウカエデなどが多い
 が,エンジュが街路樹として優れています。京都大学の北の御蔭通に沿ってエンジュ
 の並木があり,東蔦町から疎水分流に沿って北へ東高原町までエンジュとソメイヨシ
 ノの並木があります。エンジュは落葉高木で羽状複葉,八月に黄白色の花を一杯付け
 ます。秋には数珠ジュズ状にくびれた果実をぶら下げます。中国の原産で,北京にはエ
 ンジュの並木が多い。虫害も少なく長命の木で,花に蜜があり姿も良い。
 
サルスベリ サルスベリは八月から九月にかけて,暑さにめげずに美しく開花します。
 庭によく植えられる落葉樹で,幹がすべすべなので猿滑りと云います。中国南部の原
 産で,江戸時代の初め元禄頃には入っていました。円錐花序に紅紫色又は白色の花を
 開きます。花弁は円形で,縁は縮れ,長い柄が付きます。花期も長く,毎年刈り込ん
 でも翌年またよく枝を出し,小枝に四稜があり,葉は楕円形で対生,無柄です。わが
 国の鮮新世と洪積世から果実が出ますが,その種は絶えてしまいました。
 
キキョウ キキョウは夏から秋にかけて咲き,秋の七草の一つとして古くから愛されま
 した。近年京都の社寺では庭に秋草を植えている処が多く,キキョウでは大徳寺の塔
 頭タッチュウ,芳春院ホウシュンインが有名です。キキョウは日本全土・朝鮮・中国に広く野生し
 ています。中国において桔梗キキョウと書くのは,根が結実で硬直だからと云い,それか
 らキキョウとなりましたが,古くはアリノヒフキと云いました。キキョウの根は蟻が
 好きで,根の近くに蟻の巣を作ります。泥を盛り上げ,頂部から出入りし,この形が
 火吹きとも火山とも見えるからでしょうか。
[次へ進んで下さい]