15b 和歌作りのこと
 
△練習
このはちる宿は聞わくことぞなき 時雨する夜もしぐれせぬよも
                          (続世継 十 敷島の打聞)
 
ことの葉の露の恵をおふし立し この子の枝の末も洩すな(嵯峨記)
 
いにしへはちりをだにこそいとひけれ あめにしほるゝなでしこの花
                     (後鳥羽院御口伝 散木葉謌集 二夏)
うしつらし都はみじとおもひしは 別ぬほどのこゝろなりけり(同 出観集 雑)
 
富士の山同じ姿のみゆる哉 あなた面もこなたおもても(井蛙抄 六)
 
△合点添削
くれはてゝ幾日もあせぬ年の内に 猶いそぎける春はきにけり(新撰六帖 一 家良)
里人も若菜つむらし朝日さす みかさののべは春めきにけり(同 為家)
をしからぬうき身のあまりながらへて はたやことしも春にわかれん(同 知家)
長月の有明の空の村時雨 いたくも袖をぬらしつるかな(同 光俊)
窓明て山の端みゆる閨のうちに 枕そばだて月を待かな(同 知家)
我庵のあばらかくせる秋霧の まがきの風は心してふけ(同 為家)
 
わするなよながれのすゑはわかるとも ひとつみやまの谷がはの水
返し
わかるともいかゞ忘れんみなかみは おなじながれの谷川の水
                         (新和歌集 十雑 蓮生法師)
 
もろ人の立ゐる袖もむらさきの 庭に色そふけふの初春(続歌 自慶永至文明九箇度)
 
朝あけのかすみのころもほしそめて 春たちなるゝ天のかく山
白雪の消あえぬ野べの小松ばら ひく手にはるの色は見えけり
                          (土御門院御百首 定家卿)
 
秋のいろをおくりむかへて雲の上に なれにし月も物わすれする
                            (古今著聞集 五和歌)
 
わりなしや忍ぶの浦に立煙 こなたかなたになびく心は
をそくとき恨やあらん逢事に 一夜のうちを分て待ども(東野州聞書)
 
一かたはもし山びこのこたへかと きけばまことのさをしかの声(仮名世説 上)
 
昔より心々の手向にも かはらぬものはなみだなりけり
すゑとほき尾花に見れば夕ぐれの 秋風白き武蔵野の原(松屋叢話)
 
ふりそめてながれもあへぬ杣木まで うみに出でぬる五月雨の比
神代よりのあはれをおもひつゞくるも 物のかずならぬ秋の夕ぐれ(消閑雑記)
 
はなとのみ見しは麓の心にて 雲わけのぼるみよしのゝ山
しら雲と見しはふもとの心にて はなわけのぼるみよしのゝ山(橘菴漫筆 初編五)
 
△詠百首
例題歌無し
 
△詠千首
かたぶかで月すむ方の枕にも 跡にも近くうつ衣かな(東野州聞書)
 
△詠続歌
問るゝもいとゞ思ひの外なれや たちえの梅は散過にけり
山人の道のゆきゝの跡もなし よのまの霜のまゝのつぎはし(徹書記物語 上)
 
△詠著到歌
三月三日早春
今朝はまだ草木もしらぬ春の色を 空のみどりに初てぞみる
山の端の雪をもはるの光にて かすまぬさきものどかにやみむ(仁和寺宮)
隙みゆる氷をいでゝみづの声 谷のこゝろも春やしるらむ(実隆)
霜むすぶとつなの橋も今朝ははや 霞たなびき春やきぬらん(季経)
空の色もまだ年さむきみな人の ことばの花に張るやあまねき(元長)
四日憐霞
花鳥の色音の外のあはれもや かすめる山のゆふべなるらむ(仁)
ながむるにいかに露けき春ならん かすみの袖は思ひやはある(実)
紅の名にたつよりやこゝろをも 春の霞の色にそむらん
うす霧にこもりし秋のあはれさを 霞にうつす夕ぐれの空(元長)
よそにきく人にみせばや初せ山 入逢のかねもかすむひばらを(季)(下略)
                              (以上、詠著到歌)
 
立春
長閑にもこゝのかさねはけふに明て 嵐もきかぬ春や立らん
山霞
さほひめのつゝむ霞の袖よりや とほやまかつらもれてみゆらし(中略)
                             (禁中御著到 雅庸)
 
紅のなみだくらべん郭公 うたゝなく音はたれかまさると(通茂公口伝)
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