05a 歌会始[御製]
昭和四十二年度 昭和四十二年一月十二日
御題 魚ウオ
御製 わが船にとびあがりこし飛魚をさきはひとしき海を航ユきつつ
皇后宮御歌 秩父のはや屋久島の鯛長良ナガラの鮎北海の鮭をゑがきけるかな
昭和四十三年度 昭和四十三年一月十二日
御題 川
御製 岸近く烏城ウジョウそびえて旭川ながれゆたかに春たけむとす
皇后宮御歌 夏椿こずゑに花をささげたり那須高原の川ぞひの道
昭和四十四年度 昭和四十四年一月十日
御題 星
御製 なりひびく雷雨のやみて彗星のかがやきたりき春の夜空に
皇后宮御歌 あたらしき宮居の空に星ひとつあらはれにけり輝きそめぬ
昭和四十五年度 昭和四十五年一月十三日
御題 花
御製 白笹山のすその沼原黄の色ににっこうきすげむれさきにほふ
皇后宮御歌 朝なあさな色とりどりのばらの花きりてささぐるみつくゑの上に
昭和四十六年度 昭和四十六年一月十二日
御題 家
御製 はてもなき砺波のひろの杉むらにとりかこまるる家々の見ゆ
皇后宮御歌 鴨川の堤のほとりなつかしもおさなきころにすみしかの家
昭和四十七年度 昭和四十七年一月十四日
御題 山
御製 ヨーロッパの空はろばろととびにけりアルプスの峰は雲の上に見て
皇后宮御歌 紺碧の海のかなたにそびえつつけさ見る富士は雪ましろなり
昭和四十八年度 昭和四十八年一月十二日
御題 子ども
御製 氷る広場すべる子どものとばしたる風船はゆくそらのはるかに
皇后宮御歌 われもまた昔にかへる心地してをさなき子らとともにあそびぬ
昭和四十九年度 昭和四十九年一月十日
御題 朝
御製 岡こえて利島トシマかすかにみゆるかな波風もなき朝のうなばら
皇后宮御歌 くれなゐのよこぐものへに光さしつかのまにして伊豆の朝明く
昭和五十年度 昭和五十年一月十日
御題 祭り
御製 我が庭の宮居に祭る神々に世の平らぎをいのる朝々
皇后宮御歌 星かげのかがやく空の朝まだき君はいでます歳旦祭に
昭和五十一年度 昭和五十一年一月九日
御題 坂
御製 ほのぐらき林の中の坂の道のぼりつくせばひろきダム見ゆ
皇后宮御歌 もちつつじの花咲く坂をくだりつつかなたに琵琶の湖ウミを見放サけぬ
昭和五十二年度 昭和五十二年一月十四日
御題 海
御製 はるばると利島トシマのみゆる海原の朱アケにかがやく日ののぼりきて
皇后宮御歌 鹿児島の海こえゆけば船のさき天つひかりに波はかがやく
昭和五十三年度 昭和五十三年一月十二日
御題 母
御製 母宮のひろひたまへるまてばしひ焼きていただけり秋のみそのに
皇后宮御歌 今もなほ母のいまさばいかばかりよろこびまさむうまごらをみて
昭和五十四年度 昭和五十四年一月十二日
御題 丘
御製 都井岬の丘のかたへに蘇鉄見ゆここは自生地の北限にして
皇后宮御歌 海ぞひの丘のかなたの空はれて利島もけふは見えわたるなり
昭和五十五年度 昭和五十五年一月十日
御題 桜
御製 紅のしだれざくらの大池にかげをうつして春ゆたかなり
皇后宮御歌 ふだんざくらおほしまざくらも咲きそめて光あまねきけふのみそのふ
昭和五十六年度 昭和五十六年一月十三日
御題 音
御製 伊豆の海のどかなりけり貝をとる海人の磯笛の音のきこえて
皇后宮御歌 朝日岳の裾にひろごる笹原をさわさわわたる風の音をきく
昭和五十七年度 昭和五十七年一月十三日
御題 橋
御製 ふじのみね雲間に見えて富士川の橋わたる今の時のま惜しも
皇后宮御歌 鴨川のほとりにいでてながめやる荒神橋はなつかしきかも
昭和五十八年度 昭和五十八年一月十四日
御題 島
御製 凪ぎわたる朝明の海のかなたにはほのぼのかすむ伊豆の大島
皇后宮御歌 島人のたつき支へは黄八丈の染めの草木をけふ見つるかな
昭和五十九年度 昭和五十九年一月十二日
御題 緑
御製 潮ひきし須崎の浜の岩の面みどりにしげるうすばあおのり
皇后宮御歌 やはらかき日ざし透りて若桂みどりゆたかに中壷に満つ
昭和六十年度 昭和六十年一月十日
御題 旅
御製 遠つおやのしろしめしたる大和路の歴史をしのびけふも旅ゆく
皇后宮御歌 つくしなる旅路の空に新月のかかるを見たり冴えわたりつつ
昭和六十一年度 昭和六十一年一月十日
御題 水
御製 須崎なる岡をながるる桜川の水清くして海に入るなり
皇后宮御歌 さしのべて手にうくる水のつめたさに心やすらふ泉のほとり
昭和六十二年度 昭和六十二年一月十日
御題 木
御製 わが国のたちなほり来し年々にあけぼのすぎの木はのびにけり
皇后宮御歌 あたたかき光さしそふ伊豆の丘木々の梢は萌えそめにけり
昭和六十三年度 昭和六十三年一月十二日
御題 車
御製 国鉄の車にのりておほちちの明治のみ世をおもひみにけり
昭和六十四年度
昭和六十四年一月七日昭和天皇崩御のため,歌会始は行われなかった。
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