マーガレットの隣家、マルタと云う後家が独り住居。 マルタ 神様、何卒妾の親愛な夫を宥してください、夫は妾に深切にしてくれませんでした、 夫ればかりか、家を飛び出して妾を一人藁の上に遺して了いました、然し妾は決して 夫を煩わす様な事は致しません、神様も御存じの通り真心を以て愛し、片時も忘れは 致しません。(さめざめと泣く) 多分夫は死んだのでしょう、あゝ情ない事です、せめて一枚の死亡証だけでも得たい ものだ。 マーガレットは入り来る。 マーガレット 御隣の奥様。 マルタ どうなすったの、マーちゃん。 マーガレット 膝が慄えて直立(たっ)て居られないのよ、今ね、戸棚を開けると此間の様な物が 在ったのです、黒檀の箱で、其れは其れは立派な品ばかりの、最初とは比物 (くらべもの)にならないのよ。 マルタ あなた、母(かあ)さんに御話しなさるな、また直ぐに牧師の処へ持って行きますよ。 マーガレット まあ御覧なさい、一寸御覧なさい。 マルタ (マーガレットに宝石を飾り付けて) マーちゃんは幸福(しあわせ)者ですこと。 マーガレット だって外へも、御寺へも飾って行かれないから、つまらないわ。 マルタ 妾の処へ時々御出なすって秘密(こっそり)飾りなさい、而して鏡台の前を暫く御歩 きなさい、あなたも私も其で楽みましょう、而して好い機会があったら、御祭の時なぞに 一つずつ着けて人に見せるとすれば、夫れで好いじゃありませんか、まあ最初に鏈鎖を かけ、其次に真珠の耳環と云う工合にね、多分御母さんは御気がつかないでしょう、 付きました処で相応な口実が出来ますよ。 マーガレット ですが、何人(どなた)が二個(つ)まで御持ち遊したでしょう、どうも不思議でなり ません、何か悪い事の兆(しら)せじゃ有りませんかね、 (誰か戸を叩く) あら大変よ、御母さんでは無いでしょうか。 マルタ (小窓から透して見て) 見馴れぬ方ですよ、御入りなさい。 |
[次へ進んで下さい] | [バック] | [前画面へ戻る] |