妖怪等(廊下に歌う) 係蹄(わな)にかゝれる狐狸のごと、 我が地獄の古猫ぞ、 独り家内に捕われぬ、 心して外に立ち、 彼にならひて行く勿れ、 彼方に跳び周り、 上へ下へと飛び行かば、 かゝれる係蹄をゆるまなん、 能い得べくば救けよや、 彼の君等に尽しゝ幾度か。 ファウスト 四元の呪文を唱えて畜生を退治してやる。 燃えよ火神、サラマンデル、 蜿蜒たれ水神、ウンデネ、 消え失せよ風神、シルフェ、 動き疲れよ地神、コボルト。 此奴め四大元素の威力特質を弁えぬのだろうか、些も呪文のきゝめが見えぬ。 火焔に消えよ火の神よ、 滔々として流れよ水の神、 流星美を輝かせ空の神、 家業にいそしみ労れよ地の神よ、 犬に憑ける霊よ抜け去れよ。 四大元素り唯一つも畜生に宿って居らぬ、奴め平気で横になって、白眼(にらん)で 居る、よし夫ならもっと強い呪文を聴かしてやる。 汝(いまし)地獄(よみ)より逃れて来つるものあらば、 見よや、地獄の魔軍も恐れ戦く此の符号。 やあ奴め剛毛を立てゝ膨大(ふくれ)て来たぞ。 凶悪なる者よ、神の符号を読み得しか、 其は創られず、云うべからず、 而も満天に瀰漫して、 罪に刺されし者なるぞ。 妖精は呪文に苦められて象の様に膨張し、煖炉の後一面に拡った、而して霧の様に影 がぼんやりして、殆ど消えなんとして居る、こら天井に昇るな、俺の足下に跪け、俺は 無意味に威張るのじゃないぞ、三度火神に焼かれるのを待て居る馬鹿があるか、愚図 々々すると苛い呪文を唱えてやるぞ。 |
[次へ進んで下さい] | [バック] | [前画面へ戻る] |