市民
いや、僕は新任の市長は嫌いです、彼の増長は益々其の程度を高めて居ります、
奴は市の為め果して何をして居りますか、市政は日に紊乱する許りです、
吾々は益々圧制を受け、吾等の租税は幾倍の増加を加えて居るじゃありませんか。 乞児(歌う) 御顔の美しい立派な御服の、 御情深い旦那様や御新造様、 万望(どうぞ)や此の乞児(こつじ)に御目をつけて下されませ、 わたしを徒労(むだ)に歌わして下さるな、 恵んで下さる方の御心は、 常に御嬉しく感じます、 皆様が御楽しみなさる祭日は、 手前の収穫日でござります。 市民(二) 日曜や祭日に、遠い土耳其の国の始まって居る戦争の噂さを聞く程気持の宜い 事はない、又窓に凭りかゝって一杯を傾けながら、静かに下る綺麗な遊山船を 眺め、気もさっぱりと家に帰って、平和の時を祝うのが何よりの楽みだ。 市民(三) そうです、知らぬ他国の人間が、互に頭を打ち割って躁いで居ようが勝手ですが、 何卒吾々本国は相変らず大平無事であれかしと祈ります。 老婆(市民の娘等に対い) まあ何という美しい若い娘さんだろう、御前さんたちを見て恍惚としない者は ありゃしませんよ、だからあんまり傲(いば)りなさるな、併しまあ何でもよい、 御前さん達の愛慕(こいした)う人があったら願いを遂げさしてあげますよ。 市民の娘(一) アガタさん、此方へいらっしゃい、妾はあんな妖婆と一緒に行くのは忌(いや)です。 しかしあの婆さんがね、聖アンデレ祭の晩、妾に顕然(ありあり)と生々した去来の 情人を見せてくれたんですよ。 市民の娘(二) 妾に見せてくれたのは軍人の様でした、御連れと一緒に水晶鏡裡(かゞみのなか)に 歴然(ありあり)と映ったのですよ、妾は到処(そこらぢゅう)見廻わして探がしました が、遂に見当りませんでした。 兵士 堡壘堅固き敵の城、 思い傲慢(あが)れる娘の子、 我喜んで乗り取らん、 難きを冒す勇気には、 必ず高価き報酬あり。 快楽かはた滅亡か、 其一つをば選めよと、 喇叭の声の勇ましく、 我等を呼びて響くなり、 嵐は我曹の生命ぞ。 娘と城は降すべし、 難きを冒す勇気には、 必ず高価き報酬あり、 かくぞ兵士は進み行く。 |
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