05c 哲学・思想序曲[現代思想の展開]
 
△エコロジー ecology
 エコロジーは、元来は生物学の用語で生態学と訳され、生物と環境との関係を研究す
る理論ですが、今日ではもっと広い意味で環境保護運動をも指します。この生物学的な
考え方を思想の領域に移して展開したのがグレゴリー・ベイトソンです。ベイトソンは、
遺伝学者であった父親の影響を受けて、生物世界がエコロジー的な関係にあることを知
り、それを展開させて、様々な観念が相互に作用することで精神の機能が成立するとし、
これを"精神の生態学"と名付けました。
 
△ニュー・サイエンス new science
 ニュー・サイエンスは、アメリカではニューエイジ・サイエンスと呼ばれます。ニュ
ー・サイエンスは、近代科学に対する批判の中から生まれてきたものであって、近代科
学が秩序や合理性だけを求めて、その原理では把握出来ない無秩序なもの、非合理なも
のを採り入れなかったことを批判します。ニュー・サイエンスを最も強力に推し進めて
きたのはオーストリア生まれの物理学者でアメリカで活躍しているフリッチョフ・カプ
ラです。カプラは、ベイトソンからも影響を受け、現代の理論物理学と東洋の神秘主義
とが相互に補足するものであることを主張しました。ニュー・サイエンスは、部分的な
真理よりも全体的な真理を優先させます。そのために、実践的な次元でエコロジー(環
境保護)運動と結び付きます。
 
△自己組織化 self-organization
 自己組織化とは元来は生物学の用語で、生命体が単に機械のように存在するのではな
く、常に周囲の環境との相互関係の中で自己を形成し、組織して行くものであるとする
考え方です。これは、いわゆるニュー・サイエンス(前述)において展開されてきた"ホ
ーリスティック(全体的)"なものの見方と深い関係にあります。自己組織化は外側から
の刺激・ノイズに敏感に反応して、それによって自己を形成して行く能力を持っており、
その意味では開かれた組織です。
 なお、自己組織化と云う考え方を生命体に限定しないで、社会的なものについても当
てはめて考えようとする人たちもいます。
 
△散逸理論
 散逸理論は、ベルギーの化学者イリヤ・プリゴジンによる理論です。一つのシステム
(組織)が外部に対して開かれている場合、そのシステムは外部と物質・エネルギーを
交換しそれによってそのシステムは均衡から不均衡へ、更に乱れへと変化し、それによ
って新たな秩序が形成されます。このように、一つのシステムから物質やエネルギーが
散逸して行くことを「散逸構造」と呼びます。これは生命体において最も典型的な形で
存在する構造であり、それについての理論は、元来は自然科学の領域のものですが、こ
の理論を、経済学や社会科学の領域で用いようとする傾向が見られます。
 
△モナド monad
 モナドは、「単子」と訳されます。十七八世紀に活躍したライプニッツの『モナドロ
ジー』(単子論)に述べられている考え方で、実在するものの一つの単位です。モナド
は相互に独立していて窓を持っていないが、それぞれが、その視点から宇宙全体を表象
しています。そして、モナド相互の関係は、神が設定した「予定調和」によって規定さ
れています。この考え方は、一見すると荒唐無稽なもののように思われますが、個別的
なものの相互関係を考えるときに、重要な意味を持ちます。相互作用を重視する現代思
想からの研究がなされ、最近では、ジル・ドゥルーズやミシェル・セールらが再評価し
ています。

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