08 神社有職故実
〈祭典・直会とその用具〉
△祭典と直会ナオライ
祭祀は前述のように、神祇ジンギに対し衣(幣帛)・食(神饌)・住(社殿)を備え奉
って、御存生同様に奉仕することであって、これを儀式化したのが即ち祭典です。この
祭典に欠くことのできない三大要素は、
(1) 実在の奉仕、
(2) 清浄と古儀の尊重、
(3) 秩序次第の厳修
であって、これを措いて祭典は成り立ちません。このことは祭祀の規模の大小、場所、
種別を問わず一貫しているのです。
祭典が済んだ後に行われるのが直会です。直会は「なおりあい」の義で、斎戒を解い
て常態に復するを云います。即ち祭典の延長であって、神饌のお遺ノコリや、撤下テッカの神
饌を関係者が拝戴ハイタイすることです。この拝戴することによって神威を戴き、霊感を身
に占めるのです。
△祝詞用具
一 祝詞ノリト・ノット
祝詞とは、神祭に唱えられる詞コトバです。即ち祝詞は「宣説言ノリトキゴト」の義で、後
世、これを紙に認シタタめて奏上するようになりました。
祝詞は奉書などの白紙を用い、一枚ものの紙の縦七折り半に折って巻き、奏上者自ら
懐中するか、又は祝詞袋に納めて祝詞後取シドリ(役)に俸持させます。
二 祝詞袋ノリトブクロ
祝詞袋は赤地大和錦、又は青地大和錦で作られ、安置しておくために用いる安置用と、
祝詞後取シドリが俸持する俸持用とがあります。
△座席用具
一 帖ジョウ(畳ジョウ・タタミとも)
帖は神事では普通、御霊代ミタマシロ・神籬ヒモロギ等の下には繧繝ウンゲン、二方縁の厚帖アツ
ジョウ、祭場の座席用具には白、二方縁の薄帖を使用し、敷き方は畳の目を縦に、縁を前
後にします。
二 円座エンザ(藁蓋ワラフタ)
常用では無面円座(縁無し)を用います。神事には座席用として、藺草イグサで渦巻き
のように作り、七巻半の縁無しとし、敷き方は、最後の綴目を坐る人の後ウシロとします。
三 胡床コショウ(床几ショウギとも)
胡床は神事には、立体リュウタイの場合の座席用具、また神幸の場合の扈従者コショウシャの持物
等に用います。堅木で作り、腰を掛けるときは横木を前後にします。
四 軾ヒザツキ
軾はもと庭上で跪拝キハイのときに用いましたが、後に殿上の座席用具となりました。敷
き方は、藺の目を縦に、折目を上位にして縁を前後とします。
△礼拝用具
一 玉串タマグシ(玉籤タマグシとも)
もと祭神の標木として地上に刺立てたもので、後世、榊サカキに木綿ユウ又は紙垂シデ(紅
白の絹)を附けて神に奉るものとなりました。神前には榊の本モトを向こうに、紙垂又は
絹を表にして案上に供えます。玉串立に立てるときは、紙垂又は絹を神前に向けます。
△燈火用具
一 照明ミアカシ
現在神事には灯油、蝋燭ロウソク、或いは木を焚いて照明とします。
二 鑚ヒキリ
古来、木の摩擦によるものを鑚火キリビと云い、その発火器を「ひきり」と云いました。
現在も神事にこの鑚を以て浄火を鑚キり出します。
三 燧ヒウチ
古義を尊ぶ神事には、前掲の鑚に次ぎ、この燧の打火ウチビが広く用いられています。
また浄火ですので、これを打ち掛けて神饌その他を祓う風習もあります。
四 灯油トウユ
灯油は古より神前の「みあかし」の料としました。灯油には胡麻油と種油タネアブラとを
用います。
五 蝋燭ロウソク
蝋燭は古より神前の「みあかし」の料としました。
六 松薪タキギ
夜間の神事に、松の木を適宜に切り割って庭燎テイリョウ、又は篝火カガリビとして庭上を照
らすに用います。
七 灯台トウダイ
灯台は灯油を灯す用具で、油盞アブラザラを載せる台です。神事には神前の「みあかし」
に用います。灯台の下には必ず「打敷ウチシキ」を敷きます。種類には高灯台、菊灯台、切
灯台、結灯台があります。
八 灯篭トウロウ(灯楼トウロウとも)
灯篭は灯火を灯す用具です。神事には神前の「みあかし」用、献灯用、庭上では社頭
装飾用にもします。木灯篭、金灯篭、石灯篭、釣灯篭、懸灯篭などが主な種類です。
九 松明タイマツ(松とも)
上古より公事、神事、葬儀に庭上や道路を照らすに用います。松明の差し方は行列の
場合、吉事には火を列次(左右)の内側に、凶事には外側に向けます。
十 脂燭シショク(紙燭シショクとも)
脂燭は古来、夜間の公事、神事等に屋内の通路を照らすに使用します。屋外用を松明
と称し、屋内用を脂燭と云い、同じ物です。
十一 庭燎テイリョウ(庭火ニワビとも)
古来、夜間の公事、神事に庭上の照明に使用します。即ち庭上適宜の処に穴を掘って
火所ホドコロとなし、松薪タキギを積んで火を焚きます。
十二 篝火カガリビ・カガリ
古くから夜間の公事、神事、警固、漁猟、その他屋外の照明に用います。
十三 陰灯カゲトウ(陰灯篭とも)
陰灯は降神・昇神又は遷座の儀など、灯火を消して行う浄暗中の神事に、明かりを隠
して幽かに一方だけを照らすための用具です。
十四 雪洞ボンボリ
雪洞は、灯火が風に揺れたり、消えたりしないよう、火の周りに紙張りの六角形の覆
を附けた一種の灯台です。
十五 提灯チョウチン
天正時代以後、今日のような折り畳みのものが作られ、提灯には釣提灯、弓張提灯、
手提灯、高張提灯などの種類があります。神事には拝殿、神門、鳥居、玉垣、参道、社
務所等の殿舎内外の照明に用い、或いは神振用、携帯用にもします。
△直会用具
一 銚子チョウシ・提子ヒサゲ
行酒コウシュ(宴会のこと)の場合、酒を容れて盃に盛る用具です。銚子は長い柄がある
ので長柄銚子と称し、片口カタクチと両口モログチの種類があります。提子は、酒を差し加える
ために用います。現在神事には直会の席上で神酒拝戴の用に供します。両口の銚子のと
きは左口を使用します。
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