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[武士道(抜粋)] ……仏教の与え得ざりしものを、神道が豊かに供給した。神道の教義によりて刻みこま れたる君主に対する忠誠、祖先に対する尊敬、ならびに親に対する孝行は、他のいかな る宗教によっても教えられなかったほどのものであって、これによって武士の傲慢なる 性格に服従性が賦与せられた。神道の神学には「原罪」の教義がない。かえって反対に 、人の心の本来善にして神のごとく清浄なることを信じ、神託に宣べらるべき至聖所と してこれを崇め貴ぶ。神社に詣ずる者は誰でも観るごとく、その礼拝の対象および道具 は甚だ少なく、奥殿に掲げられたる素鏡がその備えつけの主要部分を成すのである。鏡 の存在は容易に説明ができる。それは人の心を表すものであって、心が完全に平静かつ 明澄なる時は神の御像スガタを映す。この故に人もし神前に立ちて拝礼する時は、鏡の輝 く面に自己の像の映れるを見るであろう。かくて礼拝の行為は、「汝自身を知れ」とい う旧きデルフィの神託と同一に帰するのである。…… 参考:岩波書店発行新渡戸稲造著矢内原忠雄訳「武士道」
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