02 千字文(抄)
千字文(抄) 07.07.01
千字文註解 参考:(株)文海堂発行「千字文註解」
千字文は、「天地玄黄、宇宙洪荒 ・・・・・」と四字で一句を成し、その間に韻を含んで
諷誦に使用したもので、その句数は全部で二百五十句、全文の字数千字でできており、
世にこれを千字文といいます。その述べるところは、宇宙の大より微物の末に至るまで、
細大網羅して遺さず、その用いられた一千字のうち、一字の重複もないことで、作者周
興嗣の苦心を窺うことができるでしょう。
千字文は、周興嗣が梁の武帝の命を受けて、王義之の書を集め、一夜の間にこれを綴
り終わりましたが、苦思のあまり一夜にして鬢髪が、みな白くなったと伝えられていま
す。
本文はこのような制約のもとに、専ら韻に適うようにつないだもので、全編必ずしも
一貫した意味はないとされています。
ここに掲げました千字文(抄)は、(株)文海堂発行の「千字文註解」を参考にして、
専ら中国のみに適用される事項を除いて、その抄を記述したものです。
千字文譯解
勅員外散騎侍郎周興嗣次韻 チョクヰングワイサンキジラウシウコウシジヰン
勅員外散騎侍郎は、中国の昔の唐時代の官職名にて、其官の周興嗣が、他の文の韻を
ふみて作れり。
天地玄黄 テンチゲンクワウ あめつちは くろくきに
天は玄,地は黄にて、玄は赤黒き色、黄は黄なる色なり。此四言は天文上天
地の色を示せしなり。
宇宙洪荒 ウチウカウクワウ おほそらは おほいにひろし
宇宙とは天地の間にて、洪は大、荒は廣きなり。これは天地間の大きく廣き
を示せり。世の廣き也。
日月盈昃 ジツゲツエイショク ひつきは みちかたぶき
盈とは滿つること、昃とは傾くことにて、日は日中より西に傾き、月は缺け
て又滿つるなり。
辰宿列張 シンシュクレッチャウ ほしのやどりは つらなりはる
辰は天の十二宮、宿は二十八宿にて共に星の座なり。此辰と宿との日月と共
に天に列り懸るをいふ。
寒來暑往 カンライショワウ さむさきたり あつさゆき
寒さ來たれば暑き往き、春夏秋冬の常に循環していつまでも限りなく變るこ
とにて、四時の變移なり。
秋收冬藏 シュウシウトウザウ あきをさめ ふゆかくす
春夏のころに播きし五穀を秋の日に取りをさめ、冬の日には取り入れし穀を
倉に入れてかくすなり。
閏餘成歳 ジュンヨセイサイ うるふあまり としをなし
閏は閏月にて陰暦にては四年目に一回閏月あり、此餘りにて一年の日かずを
定めしことをいふなり。
律呂調陽 リツリョテウヤウ りつりょ やうをとゝのふ
律呂とは音樂のことなり。中国の昔は音樂の調子にて天地間の陽氣をとゝの
へたることをいふなり。
雲騰致雨 ウントウチウ くものぼりて あめをいたし
地上の水氣が空にのぼりて雲となり、空際にて冷氣にあへば雨となりて地上
に降り來ることをいふ。
露結爲霜 ロケツヰサウ つゆむすぼりて しもとなる
夏すぎて秋になれば空中の水氣が露となり、それが寒氣にあひて凝り結びて
霜となるをいふ。
化被草木 クワヒサウモク くわは くさきにおよぼし
かくも世はよく治まりて、王化が人類に及ぶのみならず、非情の草木までも
及び被むることをいふ。
頼及萬方 ライキフバンバウ さいわひは ばんばうにおよぶ
頼は幸ひにて、人民に利益ある幸ひは、其國のみならず、版圖外の萬方の國
々までも及ぶをいふ。
蓋此身髮 ガイシシンハツ けだし このしんはつ
蓋し思ふに、此我が身體髮膚は、我が父母より受けたる大切のものなればと
いふことなり。
四大五常 シダイゴジャウ しだいごじゃう
四大とは、地水火風、五常とは仁義禮智信なり。此四大の理あるを知り、仁
義禮智信を守れとの意。
恭惟鞠養 キョウヰキクヤウ つつしみておもひ くきやうを
恭しくつゝしみて、我が父母が自分をやしない育てたまひし大恩あることを
思ひ、常に忘れざる也。
豈敢毀傷 ガイカンキシャウ あに あへてきずつけやぶらん
何とかして、むざと我が身體を、きづつけそこなふことがなるものぞと、孝
行の道を教へしなり。
女慕貞潔 ヂョボテイケツ をんなは ていけつをしたひ
いやしくも婦人は、貞操、潔白の行ひを慕ひて、此行ひに背かざらんことを
期せよといふことなり(ケツはサンズイのない潔)。
男效才良 ダンカウサイリャウ をとこは さいりゃうにならふ
男子は、才能と善良とを手本として、これにならひ、假にもよからぬ道に入
るべからずと戒しむ。
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