03 神道芸能
参考:堀書店発行「神道辞典」
〈神道芸能〉
神道芸能とは、祭りや神事に関する芸能、又は神事的性格を有する芸能である。神事
芸能とか神事芸などとも云い、舞踊に関するものだけを指す場合には、神事舞と云う。
わが国の芸能は全て発生的には祭りと何らかの関係を持ち、宗教的性格を有し、本来
神事的要素を有していたとみられる。そうした意味では広義には、わが国の伝承芸能の
全てが神事芸能であるとも言える。しかし、時代的社会的変遷を経て本来の神事的要素
を稀薄にし、或いは喪失してしまったものも少なくなく、狭義には祭事に行われたり、
神事的要素を濃厚に有するものを神事芸能と称する。
神事芸能を特に神道系統の芸能とし、これに対して仏教系統の芸能を「仏事芸能」と
して対照的に立てる考え方がある。しかし、実際には舞楽、獅子舞など同じ種類の芸能
が神社・寺院の両方に行われ、厳密には区別を立てられない場合が多い。更に本質的には
神事芸能は仏教芸能に対する対照的な立場にあるものではなく、それらの根底をなすわ
が国の固有信仰に支えられ、展開された芸能であると言える。
〔目的〕
神道芸能は、祭りや神事において、神慮を慰め奉タテマツるを目的とする。しかし、その
本来的目的が、最初からこうしたものであったかどうかは疑問である。時代による祭り
の変遷に伴い、その目的も変化を辿ったと考えられる。尤も原初的本来的神道芸能の性
格は、神事性にあったとみられる。芸能も本来は神事そのものであり、神事性をより効
果的に昂めることに本来の目的があったとみられる。
祭祀のおける神事性とは、換言すれば内容的には鎮魂呪術性と云うことになる。つま
り、神道芸能の本来的目的は鎮魂と云うことであり、内容的には鎮魂呪術であると考え
られる。従って神道芸能は本質的には鎮魂舞踊的性格を有するものであり、「神遊び」
と云う古語がよくその性格を表している。神道芸能は神事的性格が濃厚であり、それが
祭典中における一次第を構成するばかりでなく、その芸能の演出種目の進行がとりも直
さず祭祀形態をなし、一つの祭事構成をなしている場合が少なくない。
神遊び自体が、一つの祭りの構成次第を有している。例えば鎮魂祭の神事的歌舞の部
分を『貞観儀式』に拠って見ると、まず鎮魂歌を奏して御巫ミカンナギの舞踊が行われ、次
に宇気槽ウケフネの上で猿女サルメが桙を突く鎮魂呪法が演じられる。この時はまた十種トクサの
神宝カンダカラの唱え言ゴトを以って糸を結び、衣筥を揺り動かす石上系統の鎮魂術が行われ
る。そして御巫・猿女が舞い、宮内亟・侍従・舎人等がその次に順次舞っている。こうした
神遊びの部分が、鎮魂祭における祭事部分をなしている。換言すれば鎮魂祭における祭
事部分は、神遊び、即ち神事的歌舞によって成り立っていると言える。
神事芸能が祭りの構成次第によって成り立っていることは、更に宮廷の御神楽ミカグラの
場合にも見られる。祭りにおける構成には、神祭り − 直会 − 宴会と云う三部の構成
次第が考えられるが、御神楽においても、その採物舞・前張サイバリ、星及び雑歌と云う次
第には、これを詳細に検討して見ると、祭りの三部構成に適合する次第を見ることが出
来、この御神楽なる神遊びは、芸能であると同時に、祭りそのものであると言える。こ
れは民間神楽の中の古い伝承を有する種類、例えば東北や中国地方、九州などに分布す
るもの、中部山岳における花祭り・雪祭り・霜月祭りなどの中にはっきりと見出すことが
出来る。
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