[詳細探訪] 参考:小学館発行「万有百科大事典」 〈不動明王フドウミョウオウ〉 不動明王とは、仏の使命を受け、怒りの姿を示して悪魔を挫クジく明王の代表で、五大 明王、八大明王などの第一に置かれる。不動とは、仏の悟りの寂シズかな境地(菩提心大 寂静ジャクジョウ)を示す。その姿が怒りを現すのは、仏が菩提樹の下において悟りを得た とき、多くの悪魔を降した「降魔ゴウマ」の姿を象カタドったものとされる。 不動はサンスクリットでアチャラAcalaと云う。この名がヒンズー教の主神の一つであ るシバSiva神の別名であるところから、不動明王の起源をシバ神に求める説もあるが、 両者の性格について、直接の一致や関連を認めることは難しい。 不動明王が出現する経典として、最も早く中国に翻訳されたものとして、『不空羂索 フクウケンジャク神変真言ジンペンシンゴン経』第九巻(709訳)があるが、これには、不動明王は、 不動使者として左手に羂索(縄)を持ち、右手に剣を持ち、半跏趺坐ハンカフザ(片足だけ を組んだ胡坐コザ)で、釈迦仏の北に座すと記されている。簡単であるが、剣と縄を持っ て座す不動明王の形が、既にこのとき定まっていること、不動明王は不動使者と呼ばれ て仏の使者であることを知ることが出来る。 725年に中国に翻訳された『大日経』や、同じ頃翻訳された『底哩三昧耶テイリサンマヤ不動 尊威怒王使者念誦ネンジュ法』などによると、不動は仏の命を受けて怒りの姿を現し、常に 火の燃えるような境地(火生三昧カショウザンマイ)に居て、その燃えるような力によって、心 の内と心の外の、全ての障害と汚れを焼き尽くし、全ての悪魔を打ち砕き、自分は身を 棄てて、仏と世の人のための奴僕となり、口にするものは修行者の残した食物だけ(残 食供養ザンジキクヨウ)と云う、極めて遜ヘリクダった境地に居る。こうして昼夜を問わず修行 者を守り、それによって修行者の修行完成、成仏を完成させるのが、その目的であると される。 密教の教理においては、不動明王は、密教の教主大日如来の別な形(差別智身又は教 令輪身)とされ、この尊に対する帰依がそのまま大日如来に対する帰依と同じであると 見られるに至っている。 インドにおいて十二、三世紀の頃チャンダローシャナCandarosanaの名の下に崇拝され た忿怒フンヌ尊は不動明王と考えられ、中央アジア、敦煌トンコウや、南海地方でも類似の尊の 遺物が伝えられている。 しかし、不動明王の信仰が最も盛んだったのは中国とわが国で、殊にわが国では、こ の尊を本尊として行われる息災、増益ゾウヤクの不動法を中心として各地に有名な不動の霊 場が出来、不動信仰は武士、庶民を通じて行われた。怨敵退散、国家安穏の秘法は、特 に安鎮法と云われる。三井園城寺オンジョウジの黄不動、明王院の赤不動、青蓮院ショウレンインの 青不動などの名画や、高野山南院の波切不動尊像、醍醐寺の不動明王像など美術上の傑 作も枚挙にいとまがない。