[詳細探訪] 参考:小学館発行「万有百科大事典」 〈稲荷信仰イナリシンコウ〉 稲荷信仰とは、京都市伏見区にある稲荷山の三か峰を根本霊地とする全国的な神社信 仰の一派である。 日本民族がその原初の時代において、万物の発生と変化とを神の生命力の巡還する相 と信じたことに発し、それが農耕時代に移行してからは、毎年の稲刈りの繰り返しによ る儀礼の成立して行く過程において生じた、穀神に対する信仰の諸相である。その信仰 を穀神の形相として像型化したもの、即ちこの神の神影が世に流布するから、これによ って穀霊信仰の原形を推知出来る。 稲荷神には稲を担う神の形として幾つか伝存するが、その基本形としては、老翁ロウオウ 形と童子形の二種が相対的に造形されている。これは穀神の生と死とを象徴したもので あって、初春の農耕開始には瑞々しい童形の姿として、これを稲生イノウ童子と云う。これ に対して、晩秋には豊熟した稲穂の如くふくよかな翁形として、稲荷翁としたのである。 稲生童子は、二月の初午日ハツウマノヒに出現すると信じられていた穀神の姿であり、稲荷 翁は冬至の火焚ヒタキ祭に火煙と共に葬送される穀神の姿と見なすことが出来る。穀神の稲 荷神は人間生活にとって最も根本的で、かつ親近な穀物に対する生命信仰から発し、そ れが民族固有の神社信仰として展開したのが、稲荷信仰の諸相である。