20 日本人の一生と祭事(人生儀礼)
日本人の一生と祭事(人生儀礼)
参考:大法輪閣発行三橋健氏編「神道」
▼充実した人生を送るために
「古事記」に拠る伊邪那岐命と伊邪那美命に関する神話の中において、葦原中国アシハラ
ノナカツクニにおいては「一日ヒトヒに必ず千人チタリ死に、一日に必ず千五百人チイホタリ生まる」とあ
ります。これは、日本人の生と死の起源を伝えているのです。
このように人々の生命イノチは神様から授かったものですので、それは必ず死ななければ
ならないものでもあります。それ故に生命は尊く、大切にしなければなりません。そし
て人々は与えられた生命に活力を与え、生き生きとして、充実した人生を送りたいと願
わずにはいられません。その一つの方法として編み出されたのが、人生の節目毎に行わ
れる種々の儀礼や祭事です。これらの儀礼や祭事は我々日本人の長い生活体験から生ま
れた知恵であり、またこれを日本人の「生活文化」と呼んでもいいものです。
人生の節目とは、屡々、旅人が越えて行く峠に譬タトえられます。人の一生においても、
幾つかの峠があり、それは物事の一番難しいときであり、そしてそれは必ず越えなくて
はならない峠なのです。峠の向こうには新しい世界が広がっているのです。ですから峠
を越えなければ、次の人生は始まりません。しかし峠を越えるには、やはり危険や困難
が付き纏マトいます。そこで先祖等タチは、峠の神(道祖神)へ手向タムけをして、神の加護
によって無事に峠を越えようとしました。また道中(人生)の安全をも祈りました。峠
という語は、手向タムケという言葉から生まれたと言われています。
人生の節目毎に行われる様々な儀礼や祭事は、そのための警鐘でもあり激励でもある
のです。
▼様々な人生の儀礼と祭事
生活文化としての人生の儀礼や祭事は、単に人生儀礼とも通過儀礼とも、また年祝トシ
イワイとも呼ばれ、地域により、年齢の異なる毎にいろいろありますが、主なものは次のと
おりです。
(1)帯祝オビイワイ
人生儀礼は、人が生まれる前から始まっています。まず懐妊して5ケ月目の戌イヌの日
に帯祝をします。これは丈夫な赤ちゃんを安産できますようにと神前にお祈りします。
別に着帯チャクタイの式とか、着帯の祝ともいい、古く平安時代からの儀式です。なお戌の日
を選ぶ理由は、犬は元々安産する家禽ですので、これにあやかりたいとの願いからです。
(2)お七夜シチヤ
いよいよ赤ちゃんが誕生しますと、その出産をお祝いします。誕生して七日目にお七
夜といって、その日に赤ちゃんの命名の儀式をします。その後は、お喰初クイゾめ、箸ハシ
初ハジめ、箸揃えなど初めて赤ちゃんにご飯を食べさせる内祝ウチイワイをします。
(3)お宮参り
生後三十日前後(男児は三十一日,女児は三十二日とも)、又は百日になったらお宮
参りします。これは誕生して初めて氏神様へお参りするもので、一名初宮ハツミヤ参りとも
いいます。その本義は産土神に対する氏子入りの挨拶にあると考えられますが、一般的
には神前において,神様から授かった生命の誕生に感謝し、親戚縁者一同で喜び合い、
その子がすくすくと育つことを祈願します。
お宮参りの起源については、鎌倉時代に将軍頼朝ヨリトモの子、即ち後の将軍実朝サネトモが
宮参りをされたとする説がありますが、実は既に室町時代において足利将軍家など武家
の間において行われていました。
お宮参りの日取りは出産の忌み(即ち穢れのこと)の期間に関連して決めらたもので
すが、一般的には出産後、母子とも体調が安定し、かつまた暑さ寒さを避け、家族や親
族の都合の良い日を選んで参拝することになります。
(4)七五三参り
また七歳になるまでは肉体的にも精神的にも急激に変化し、かつ不安定な成長期です
ので、その間の大きな節目であります三歳、五歳、七歳のときに産土ウブスナ様へお参りし
て、無事に育つことを祈願します。これを七五三参り、単に七五三ともいいます。
通常、年齢的には数え年三歳の男女児、五歳の男児、七歳の女児が、十一月十五日又
はその頃の時期に晴れ着を着てお参りします。七五三の由来は、平安時代の公家社会に
おいて行われていました祝いの儀式、即ち三歳を「髪置カミオキ」といい、幼児期に剃って
いた髪を伸ばし始めること、五歳を「袴着ハカマギ」といい、成長に伴って初めて袴を着け
ること、七歳を「帯解オビトキ」といい、着物に縫い付けてあった紐ヒモを落として帯を締め
ることの儀式が、やがて上下を問わずに広く行われるようになったものです。十一月十
五日という日の由来は、徳川五代将軍綱吉ツナヨシの子の例に倣ナラったとされますが、この
日(当時は明治時代で旧暦を採用していました)は望モチ(満月)に当たり、全国各地の
農家において行われていました霜月シモツキの祭りの当日でもあったのでした。
(5)成人式など
その後幼稚園などへの入園や、小学校などへの入学に際して氏神様に奉告ホウコクし、健
康と学業成就を祈願します。
さて成人になりますと、神前において立派な大人になることを誓い、そして感謝しま
す。
(6)結婚式
神前結婚式の次第は通常、参列者は神前に向かうに当たってまずお祓いを受けた後、
結婚式を執り行うに際して一同が神前に一拝します。神職が神饌を供え、祝詞を奏上し
ます。次に三三九度夫婦固めの盃サカズキ、新郎新婦による誓いの詞コトバ(結婚指輪の交
換)、終わって玉串拝礼、媒酌人バイシャクニンの玉串拝礼、親族固めの盃と続き、神職が神
饌を下げた後、一同が神前に一拝して式を終了します。
明治以前からのわが国の伝統的結婚式は、家庭の床の間を神座に見立てて、その前に
おいて神の料としての酒を酌み交わす形式が通例でした。昨今のような神社あるいは結
婚式場における神前結婚式は、明治三十三年に皇太子(後の大正天皇)の御婚礼が皇居
の賢所カシコドコロ大前において執り行われましたのを契機に、東京の日比谷大神宮(現在の
東京大神宮)で結婚式次第を定めたのが始まりとされています。
(7)厄年ヤクドシ
厄年といって、特に慎まなければならないとされる悪い年回りがあります。これはも
と陰陽道オンヨウドウの思想でしたが、今日では広く民間に定着し、厄除け、厄払い、厄落と
しなどといって、氏神様に参詣して、災厄サイヤクを避けて福を招くようにとお祓いを受け
ます。厄年(数え年)は一般に、男は二十五、四十二、六十歳、女は十九、三十三、
三十七歳といわれ、このうち男四十二歳、女三十三歳を大厄ダイヤクといって、特に用心し
なければならないとされています。
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