17 祭礼と芸能
 
              祭礼と芸能
 
                     参考:大法輪閣発行三橋健氏編「神道」
 
 ▼芸能の本義
 神社の祭りには、多種多様な芸能が行われています。昨今では芸能は、祭りに付随し
た催し物のように見受けられますが、芸能は本来、祭りにおける信仰儀礼の一つでした
し、また祭りそのものでもありました。日本各地で行われております芸能の殆どは、季
節季節の祭りを母胎として生まれ育まれてきたものです。
 このような芸能は、その地域社会全体の生活習慣として伝承され、換言すれば生活の
場の芸能でもあるのです。これを一般に「民族芸能」と呼び、専門の俳優によるところ
の能・歌舞伎・文楽などとは異なるものです。
 民族芸能は、祭りを繰り返すことによって一定の様式が形成され、この繰り返しによ
って共通意識が醸成されてきたのです。神をお招きして、饗応し、神に祈りを捧げ、感
謝の意を尽くし、そして最後に神をお送りする、という祭りの場において、芸能は形成
され、また神に祈る人々の情念が芸能を育成する力となったのです。
 神をお迎えするために、神降ろしの歌を唄い、また唱え事を言ったり、その神を賛美
する種々の所作が演じられたり、笛や太鼓・鈴・鉦などの楽器が奏されることもありま
す。これをワザオギと言います。ワザは動作、オギは招くの意です。芸能は本来、神を
招オぐワザオギの意義があったと言われています。神をお迎えする旋回運動をするという
神迎えのワザから「舞い」が生まれました。こうして出現した神は、神懸ガかりした者
又は神に扮した者の言葉や動作を通して、その神意を伝えます。ワザオギの芸能は、神
と人とが交流するための大切な宗教的行為なのです。神の託宣の中から神の物語が生ま
れ、それに神々の仮面を着けた者の所作とが合わさって、やがて演劇性を持った芸能が
形成されていくのです。また、人間に災いをもたらす悪霊を鎮め祓う祭りの中から、例
えば悪霊を鎮め押さえるための力強い足拍子といった所作が形づくられ、躍動的な「踊
り」が生まれます。オドリは跳躍する意味のオドルからでた言葉です。
 このように芸能は、神々に対する人間の祈りの具体的な表現行為なのです。祭りにお
ける芸能を考えることは、神と神を祭る人々との営みであるところの、祭りに秘められ
た日本人の心を知る、ということです。
 
 ▼民俗芸能の種類
 神々に対する祈りは、どのような芸能として地域に伝承されているでしょうか。わが
国の民族芸能の中において神事芸能としては、神楽カグラ・田楽デンガク・風流フリュウがあり
ます。
 神楽は、神をお迎えする座を中心に、種々の芸能が演じられ、祭りそのものともいえ
る芸能です。巫女ミコが鈴・扇や榊サカキなどの採物トリモノを持って舞う「巫女神楽」、素面の
採物舞と演劇的な仮面劇から成る「出雲系神楽」、釜に湯を沸かし、神威の篭もる湯を
身に浴びて心身を清め魂の復活を図る「湯立ユタテ神楽」、強大な霊力を持つ獅子頭を舞わ
して悪魔祓いの祈祷を行う「獅子神楽」などがあります。
 田楽は、主として田の稲作儀礼に関わる芸能の総称です。正月に一年の農作業の様を
模擬的に演じ、田の仕事が順調に行われていくことを願い、豊作を祈る「田遊び」、田
遊びが舞踊化された「田植踊」、田植え時に行われる「御田植神事」や「囃ハヤし田・大
田植」、また外来の芸能と結びついた田楽などもあります。
 風流は、夏季における悪霊退散・雨乞い・虫送りなどのために唄ったり踊ったりした
ことから発したもので、花笠・花傘・鉾などを神座として悪霊を誘い、これを中心にし
て大勢で乱舞し、悪霊を鎮め送る芸能です。「風流フリュウ」とはミヤビヤカの意ですが、
豪華な作り物や扮装の趣向を凝らした行列や踊りを風流と称するようになったのです。
 民族芸能にはこのほか、目出度い言葉を述べれば、その言葉通りになるという信仰に
基づいて祝言を述べ歌舞を演じる「祝福芸能」、また6〜7世紀に中国から伝来した伎
樂ギガク・舞楽ブガク・散樂サンガクなどの「外来芸能」は、民間において祭礼に中に生き残
り、あるいはまた従来のわが国の芸能に大きな影響を与えてきました。例えば能や人形
芝居などは、こうした外来芸能と従来の芸能が結びついたものです。

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