3001b イスラム思想2
 
〈イスラム法による行動規範〉
 宗教儀礼は信徒個人の神に対する縦の義務体系ですが,信徒間の横の関係は家族に対
する責任体系が基本に据えられます。その家族とは,家父を指導者・権威として,幾つ
もの世帯が結び付いて共同生活をする大家族のことです。この家族はイスラム教団の小
世界とも云うべきもので,イスラム教徒の生活の基礎的な単位として大切な結び付きと
みなされます。この家族的結合の安定は,イスラム法においては宗教的に特に尊重され,
成人した男女とも独身生活を送るのは好ましいことではなく,結婚生活が勧められます。
イスラム法は父権を強化する役割を持ちますが,全く女性の立場や権利を無視するもの
ではなく,相続の権利は女性にも認められます(ただし,男性親族よりも少ない)。た
だ,女性には結婚して子供を産み育て,家族を作る主婦としての役割が重んじられるの
です。このような彼等の家族観が,イスラム法の結婚・離婚・相続などの規定に観られ
ます。
 イスラム法は社会生活の基礎的な単位としての家族の在り方から,信徒等の宗教共同
体(ウンマ)の在り方にまで及びます。この共同体は信仰を絆として結ばれるもので,地域
や血縁,国家,民族,部族を超えて成立するものです。そこにおいては奴隷も信徒とし
て認め,奴隷の自由民への解放が法的に信徒に勧められます。また,発達した商業社会
を背景に商業活動をスムーズにするための契約・売買の行為が法的にも規定されていま
すし,証言・訴訟・裁判・刑罰についても独自の法体系を作っています。
 
 四人妻を認めることについてコーラン(四,三)には,
 
 もしおまえたち(自分だけでは)孤児にとてもよくしてやれないと思ったら,気にい
 った女をめとるがよい。二人なり,三人なり,四人なり。だが,もし(妻が多くては
 )公平にできないようならば一人だけにしておくか,さもなくば女奴隷だけで我慢し
 ておけ。その方が片手落ちになる心配が少なくて済む。妻たちには結納金を払ってや
 れ。
 
と出ていますが,四人妻まで認めたことには歴史的事情があるのです。メッカの敵対者
との度重なる戦争のために,イスラム側に沢山の未亡人や孤児が出て,そのために問題
が生じ,孤児の母親のうちの気に入ったものと結婚してやるがよいと,孤児・未亡人の
扶養がコーランの趣旨であると云われているのです。事実,預言者マホメットはそのよ
うな戦争未亡人を幾人も妻としました。
 しかし今日,イスラム教徒の男性のうち実際に複数の妻を持てるだけの余裕のある男
は少ないようです。現実には多くの場合一夫一婦で,一夫多妻は例外的と云われており
ます。
 衣食住に関しては,イスラム法においては飲酒は禁じられています。当時(マホメッ
トの頃)のアラブ族にとって葡萄酒は遠路もたらされるので貴重である上に,酒の商人
はユダヤ人やキリスト教徒でした。マホメットは酔って礼拝に現れた信徒に不快感を持
ったとも云われ,コーラン(四,四六)において,
 
 酔っているときは自分で自分の言っていることがはっきりわかるようになるまで礼拝
 に近づくな
 
と指示しているのは,この経験から出ていると説く学者もいます。葡萄酒は天国の悦楽
に出てきますが,コーラン(五,九二)においてはこの世の生活においては,
 
 酒と賭矢と偶像神と占矢は禁忌されることで,サタン(悪魔)の業であるから避けな
 さい。そうすればおまえたち,きっと運がよくなるであろう。サタンの狙いは,酒や
 賭矢などでおまえたちの間に敵意と憎悪を煽アオりたて,アッラーを忘れさせ,礼拝を
 怠けるようにしむけることにある
 
と指示されて禁じられます。
 食物はアッラーの恵みですので,感謝して戴くのが信徒の正しい態度ですが,禁じら
れた食物としてコーラン(二,一六八)には,
 
 死肉,血,豚肉,屠殺のときアッラー以外の名が唱えられたもの(異教神に捧げられ
 たもの)だけである
 
さらに,同(五,四)には,
 
 絞め殺した動物,撲殺した動物,墜落死した動物,突き殺された動物,また,他の猛
 獣の食べたもの,偶像神の祭壇で屠ホフられたもの・・・・・・
 
とあります。                             以上

[バック]