05c [須佐之男命]
 
〈五穀の始まり〉
 
 日の女神天照大御神アマテラスオホミカミが天の岩屋戸に隠れてしまう、と云う大事件も、高天
原の八百万の神々の協力によって、目出度く元の通りに収まることが出来ましたが、元
はと云えば、この大事件は、弟君の須佐之男命スサノヲノミコトの乱暴な振る舞いから起こった
ことです。
「いくら弟君とは云え、このままにしておいて良いであろうか。」
「また、こんな乱暴な振る舞いをして貰ったら、大変なことになる。」
「何とか、厳重な処罰をして、懲らしめなければ・・・・・・。」
 高天原の八百万の神々が寄り集まって、会議を開き相談しました。
 その結果、須佐之男命に罪を償わせるため、千の台の上に置き並べる程の沢山の贖
ツグナい物の品々を差し出させることにしました。
 それでもなお、罪を償うには十分でなかったので、須佐之男命が顔に生やしてい、自
慢の髭を切り落とし、手や足の爪を抜いた上で、高天原から追放してしまうことになり
ました。
 
 須佐之男命はこのような重い処罰をうけて、すごすごと高天原を後に、地上の世界へ
と降りて行きました。
 爪を抜かれた手や足は、ずきずき痛む、もう前のような荒々しい元気もありません。
その上、腹が空スいて空いて、どうしようもなくなりました。
 その時、食物を司っている大気都比売神オホゲツヒメノカミと云う神に出会い、
「どうか私に、食物を与えて下さい。」
と、哀れな声で頼みました。
 大気都比売神は、可哀想に思って、
「それでは、暫くお待ちになって下さい。」
と、言って、物陰に隠れて、その鼻や口や、尻から様々な食物を採り出して、それを材
料に料理し、美味しい御馳走を作り始めました。
 須佐之男命は、大気都比売神が物陰で何をしているのだろうか、と怪しんで、そっと
覗いて見ますと、そんな有様です。
「私に、そんな汚らしい食物を食べさせるつもりなのか。」
と、怒ってしまい、また乱暴な心が起こった須佐之男命は大気都比売神を捕まえて、遂
に殺してしまいました。
 
 その時、殺された大気都比売神の体から、次々と生まれた物がありました。
 まず、その頭から、蚕が生まれました。
 次に、その二つの目から、稲の種が生まれました。
 次に、その二つの耳から、粟が生まれました。
 次に、その鼻から、小豆が生まれました。
 次に、その陰処から、麦が生まれました。
 次に、その尻から、大豆が生まれました。
 そこで、穀物を司る先祖の神である神産巣日御祖命カミムスビミオヤノミコトは、これらの稲、
粟、小豆、麦、大豆の五種類の穀物を大事に取り集めさせました。それ以来、人間はこ
れらの種を元に穀物を作り、食べるようになったと云うことです。

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