04c [伊邪那岐命・伊邪那美命]
伊邪那岐命は、こうして穢れたものを全て脱ぎ棄て、朝の光が映えている清らかな川
の流れを見つめながら、
「この川の上流の瀬は、流れが速過ぎる。下流の瀬は、流れが緩やか過ぎる。」
と、仰って、流れの程良い中流の瀬の辺りに行き、その流れの中に体を沈めて水を濯ぎ
掛け、洗い清めました。
そのとき生まれたのが、八十禍津日神ヤソマガツヒノカミと大禍津日神オホマガツヒノカミです。
この二柱の神は、黄泉の国へ出かけて行ったとき、体に付いた穢れが因になって生ま
れた神です。
次に、この穢れの禍いを取り去って元の状態に直そうとして生まれたのが、神直毘神
カムナホビノカミと、大直毘神オホナホビノカミと、伊豆能売神イヅノメノカミの三神です。
次に、水の底に深く沈んで、体を洗い清めたときに生まれたのが、底津綿津見神ソコツワタ
ツミノカミと、底筒之男命ソコツツノヲノミコトです。
次に、水の中で体を洗い清めたときに生まれたのが、中津綿津見神ナカツワタツミノカミと、中
筒之男命ナカツツノヲノミコトです。
次に、水の面に出て体を洗い清めたときに生まれたのが、上津綿津見神ウハツワタツミノカミと、
上筒之男命ウハツツノヲノミコトです。
これらの神々は、何れも海を守り、海路の安全を司る神です。
以上述べた三柱の綿津見神は、海人の部族を統一している安曇アヅミ氏の一族が、祖先
の神として崇め奉っている神です。その訳は、安曇氏の一族は、綿津見神の子の、宇都
志日金拆命ウツシヒガナサクノミコトの子孫に当たるからです。
なお、ここに挙げた底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命の三柱の神は、摂津の国の
住吉神社に祭られている三座の大神です。
さて、続いて伊邪那岐命は、黄泉の国の穢れを見た、左の目を洗い清めたときに、天
照大御神アマテラスオホミカミと云う神が生まれました。
次に、右の目を洗い清めたときに、月読命ツクヨミノミコトと云う神が生まれました。
次に、黄泉の国の穢れを嗅いだ、鼻を洗い清めたときに、建速須佐之男命タケハヤスサノヲノ
ミコトと云う神が生まれました。
以上に述べた八十禍津日神より建速須佐之男命まで、合わせて十四柱の神は、何れ
も体の穢れを洗い清めることによって生まれた神です。
伊邪那岐命は、この三柱の神を生み出すことが出来て、大層喜び、
「私はこれまで、沢山の御子を次々と生んで来たが、最後になって、このような三柱の、
世にも尊い立派な御子を得ることが出来た。何と嬉しいことだろう。」
と、仰って、首に懸けていた美しい玉飾を執って、ゆらゆらと動かしました。
すると、その玉飾は、美しい音色を響かせました。
それから、伊邪那岐命は、この玉飾を、天照大御神に授けて、
「お前は、私に代わって、天上の世界の高天原を治めなさい。」
と、命じて、その大事な仕事を任せられました。
それで、この首に懸けた玉飾りの名前を、御倉板挙之神ミクラタナノカミと云うようになりま
した。この神の名は、倉の棚に安置して崇める、と云う意味です。
次に、伊邪那岐命は、月読命に向かって、
「お前は、私に代わって、夜の国を治めなさい。」
と、命じ、その大事な仕事を任せられました。
次に、伊邪那岐命は、建速須佐之男命に向かって、
「お前は、私に代わって、海原の国を治めなさい。」
と、命じ、その大事な仕事を任せられました。
こうして、昼の国と、夜の国と、海原の国とが、この三柱の立派な御子たちに委ねら
れたのです。
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