11b 用語解説
 
そそり
 巫山戯フザケる意から、女方の役者が立役に、下っぱの俳優が主演者になるなど、配役
 を変えて見物を笑わせる催し。天地会とも云う。
 
たて
 立回り。「殺陣」の字を当てることもある。舞台で演じられる太刀打や柔道の格闘の
 ことだが、歌舞伎では幾つかの型の組合せによって、飽く迄も美しく様式化して表現
 される。時代・お家・世話の三大種別の他「所作立ショサダテ」「だんまり」などがあり、
 立回りを考案する者を立師タテシと云う。
 
宙乗りチュウノリ
 空中を飛行する様を見せるけれん的演出。俳優の身体に機具を取り付け、背から吊る
 して、高く張られた綱に車仕掛けで花道の上などを移動してみせる。
 
チョボ
 義太夫狂言で、舞台の上手カミテ(客席から見て右)に居る義太夫語り、またその義太夫
 節のこと。太夫の語る部分だけに、ゝゝとチョボ点が付けてあるからこう呼ぶ。
 
ツケ
 俳優の演技を誇張して人物を印象付けるため、舞台の上手で演技に合わせて拍子木で
 板を打つこと。歩行・駆け足・打擲チョウチャク、物体の落下、立回りの音の他、俳優の見得
 ミエの効果を上げる時に使う。打つ人を「ツケ打」と云い、大道具方の担当。
 
面明りツラアカリ
 燭台に点火して長い柄を付け、後見が遠くから差し出して役者を照らすもの。差出し
 とも云い、電気照明のない頃、主に花道の演技に用いた。現在でも古風な味わいを出
 すために用いて効果を上げている。
 
連ツラネ
 わが国の芸能に古くからある言葉や歌を長々と雄弁に朗唱する様式だが、歌舞伎の台
 詞に採り入れられて、主として荒事の主役が述べる懸詞カケコトバを連ねた美文調の長台
 詞のことを云うようになった。『暫シバラク』の主役が花道で述べるのが代表的なもの。
 「厄払い」と云うのは世話狂言での連ツラネと云うことが出来る。
 
卜書トガキ
 脚本で、台詞以外の、状態や状況を説明する地の文章。「と弁慶、金剛杖にて・・・」な
 どと必ず「と」から書き出されているのに拠る。
 
とんぼ
 「とんぼを切る」と使う。立回りのとき、空中で何者にも支えられずに宙返りするこ
 と。たての基本として歌舞伎俳優全てが習得すべきものとされている。
 
名題ナダイ
 歌舞伎狂言の題名。外題ゲダイとも。また、看板に名前を連ねられる俳優(名題役者)
 の略称。大幹部のことを大名題オオナダイと云うように使う。
 
二重ニジュウ
 舞台の床の上に一段高く築く大道具の台。常足ツネアシ(一尺四寸、約42p)、中足(二
 尺一寸)、高足(二尺八寸)の三種があり、町家は常足、御殿は高足を用いるなどと
 定められており、この類タグイを定式ジョウシキ舞台と云う。
 
花四天ハナヨテン
 四天とは歌舞伎衣裳で裾の割れた着付の一種。舞踊劇や様式的な時代物に出る軍兵・捕
 手トリテなどが着る、木綿地、染模様の四天を云い、多く花枝や花槍を手に登場するので
 この名が出た。これを着て出る役柄の通称でもある。
 
早替りハヤガワリ
 一人の俳優が同一の場面で目先の変わった役をごく短時間で替わって演じる演出法。
 衣裳・鬘カツラに特殊な仕掛けを施し、吹替フキカエと云う代役スタンドインを使って観客の目を欺
 アザムく。
 
引抜ヒキヌキ
 上演中に一瞬のうちに衣裳を変える演出。新しく見せる衣裳の上に糸で止めてある着
 物が、糸を引き抜くと取れる仕掛けになっている。同様な仕掛けで、帯を境に衣裳の
 上半身が裏返しに垂れて下半身を覆うのを「ぶっかえり」と云う。
 
見得ミエ
 劇中、俳優が動作を一時停止して形を付けること。劇的盛り上がりと役の感情の高揚
 を表す手法なので、必然的に「睨ニラむ」動作を伴い、ツケを打ったり、太鼓などの鳴
 物ナリモノ」を加えることが多い。取り分け誇張の大きい見得を行うことは「大見得を切
 る」と云う。
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