0702松虫
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈松虫マツムシ〉
「松虫」
 @バッタ目マツムシ科の昆虫。体長約25o、淡褐色で、腹部は黄色。本州以南に分布
し、林縁や河原に多く、8月頃「ちんちろりん」と鳴く。鳴虫として飼われる。
 A古く、鈴虫のこと。平安時代、鈴虫と松虫と名称が入れ違っていた。
 
「松虫」
 能の曲名。四番目物。金春禅竹コンパルゼンチク作と云われる。『古今集』仮名序の「松虫
の音ネに友を忍び」を素材とする。津の国阿倍野アベノの市に来て酒を売る男(ワキ)の店
に若い男達(前シテとツレ三人)が、何時もの如く現れ酒宴をする。そして男の一人が、
仲の良い二人の男があってその一人が虫の音を聞きに行き、そのまま死んだと云う昔語
りをし、男達は立ち去る(中入)。夜と共に店の主が昔語りの男の霊を弔うと、その霊
(後シテ)が現れ、舞(黄鐘早舞オウシキハヤマイ又は男舞オトコマイ)を舞い、夜明けと共に消え去
る。後には虫の音が残るのみであった。
 
 秋の野に集スダく虫の音と男同士の友情とを描く能。死んだ男の執心を表す一方、遊舞
の心をも表し、秋の物淋しさを十分に表現し得た抒情味溢れる作品。そしてまた前シテ
は直面ヒタメンで笠を被って現れ、後シテは黒頭クロガシラに怪士アヤカシ・淡男アワオトコなどの面を懸
ける。これは男の霊でもあるが、また松虫の霊とも採れる。ただしこの男の霊は、昔語
りに出る二人のうち、どちらの霊であるか不明瞭なところがある。後場では、ワキがシ
テに酌をし、これを受けて常より少し短い舞を舞い、最後にはワキが見送るうちにシテ
が先に幕へ入ってしまう小書演出「勧盃カンパイ之舞」がある。この演出は、恰も虫の音に
誘われて茫々たる草原の中に消え去る風情を示し、真に興味深い。
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