0108老松
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈老松オイマツ〉
「松」
 マツ科の一属。北半球の温帯を中心に約百種が分布。常緑の高木。葉は針状、2〜3枚
又は5枚。雌雄同株。花は春に咲き、雌花は毬状で新芽の頂に生じ、雄花は新芽の下部に
穂状に密生。球果はいわゆる「まつかさ」。日本にはクロマツ・アカマツ・ゴヨウマツな
どがあり、長寿や節操を象徴するものとして古来尊ばれる。天然記念物の大木も多い。
 
「老松」
 能の曲名。初番目物(脇能物)。世阿弥作。『源平盛衰記』『北野縁起』『史記』な
どから素材を得ている。
 都に住む梅津ウメヅの何某(ワキ)が従者(ワキツレ)と共に九州太宰府の安楽寺参詣
へと向かう。寺に着くと、杉箒を持った花守の老人(前シテ)が若い男(ツレ)を従え
て梅の花盛りを愛でつつ現れる。梅津某の問いに任せて老人は紅梅殿と呼ぶ梅と、老松
について説く。更に、梅を文学を好む好文木コウブンボクと名付け、松を大夫タユウと名付ける
謂れを物語る。夜と共に老人達は消え失せ(中入)、やがて旅人の夢の中に、老松の精
(後シテ)が臈ロウ長けた老神の姿で現れ、静かな舞(真シンノ序之舞)を舞い、久しき春
の目出たさを祝福する。
 
 祝言の心持ちが漲ミナギる曲。菅原道真公の伝説に基づく曲ではあるが、道真公には殆
ど触れず、専ら長寿の木「松」と諸木に先駆けて咲く「梅」とを扱い、目出たさで全体
を統一している。ワキ・ワキツレの登場が真シンノ次第、前シテ・ツレの登場が真ノ一声
イッセイ、後シテの登場が出端デハ、そして前段の特に長いクセ、後段の真ノ序之舞と云った
構成は、脇能としては珍しく、特色のある作品。真ノ序之舞は太鼓入り序之舞の特殊な
もので、極めて静かな荘厳な感じの舞。主として老体の神か老社人かが舞う。後段に天
女姿の後ツレ・紅梅殿が登場して真ノ序之舞か天女之舞を舞う小書コガキ演出(「紅梅殿
コウバイドノ」「返留之伝カエシドメノデン」など)があるが、この演出の方が古い形であろう。
江戸時代、江戸城での正月三日の謡初式には、『老松』『東北トウボク』『高砂』が行わ
れ、この『老松』は観世大夫が勤めた。何れも目出度い曲であり、江戸幕府が能を式楽
として用いたためである。本曲は三味線音楽にも御祝儀曲として採り入れられ、同名の
常磐津・清元・長唄などが現行する。
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