80 身近に生えて気になる植物〈ワサビ〉
〈ワサビ〉
ワサビ山葵はアブラナ科の多年草、わが国の特産種で山間の渓流に生ずる宿根性であ
る。肥大した円柱状の根茎があり、その表面には高く隆起した多数の葉痕ヨウコンがある。
葉痕の腋ワキには芽が出て、それが小さい塊茎となり、そこから根を出し、生長して分枝
茎となる。主茎は3年目に中心部が木質化し、4年目には枯死するが、そのときに分枝
茎が代わって生長して行く。根出葉は根茎の頂部に叢生ソウセイし、長い葉柄があり、円形
で幅は8〜10p、基部は心臓形となる。表面は光沢があり、縁は波形に曲がる。3〜5月に
地上茎を伸ばし、その上に短い柄のある小形の葉を互生し、白色の4弁花を咲かせる。
花が終わると先端に嘴クチバシのある角果を生じ、中に小形の楕円体状の種子を生ずる。
〈利用〉
ワサビの全草に特有の香気と辛味があるが、特に根茎を古くから香辛料として利用し
ている。辛味の成分はシニグリンと云う配糖体で、これが酵素の働きで分解され、辛子
油を生ずることによる。最も普通の用途は、生品を摺り卸して刺身や鮨に添える。また
葉柄と共に根茎を細かく刻んで粕漬けにしたものを、「山葵漬け」と称して各地の名産
としている。
漢方では食欲増進、防腐殺菌、リウマチや神経痛の貼付チョウフに用いる。
ワサビは山間の清涼な粋を好み、水量が豊富で、水温が季節によって著しい変化がな
く、11〜14℃位の処が適している。伊豆半島の天城山周辺や安倍川の上流地方など、静
岡県下が有名な栽培地帯である。ワサビは元来水生植物であるが、水を離れて陸畑に栽
培されるように馴化ジュンカされたものであり、これを畑山葵、又は陸山葵と呼び、本来の
ワサビを沢山葵、又は水山葵と呼ぶことがある。
なお、粉山葵は天然のワサビを乾燥させ、粉末にして、色素、澱粉、辛子などを混合
して作ったものである。
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