06b 茶花とは
 
 「分類草人木」には花瓶の項に,青磁や胡銅のことが詳しく述べられており,即ち,
 
 一、青磁の筒蕪ナシノ様ナル結構ナル花瓶ニハサビタル花ヲ入ベシ。
 一、青磁の花瓶ニ様々有之、竹ノ子世ニ多シ。伊勢山田ヨリ三好宗三ヘ行タル竹ノ子
  天下一也。竹ノ子ハ節アルモノナリ。コノ宗三ノ竹ノ子ハ中ニ節ナシ。青磁ノ物ノ
  頂上ナル由、宗珠被申候。
 一、竹ノ子に生留オイドマリト云アリ。輪底ニイノメ有ヲ云也。
 一、蕪ナシ天下ニ三ツ四ツ有之。高サ六寸六分(20p)。口五寸八分(17.6p)。七
  寸(21.2p)モアリ。池上(如慶)所持の斗ハカリニヒビキ有之。
 一、砧キヌタ。松枝隆仙所持、天下一也。ヒビキ有トテ砧ト名付也。
 一、筒。天下に四ツ五ツ有之、万代屋モズヤ了二、茜屋アカネヤ宗佐、稲葉一徹ニ有之。
 一、銀杏口、桔梗口、是モ三具足ノ花瓶也。青磁ノ三具足ノ一対シタルハ稀ナル者也。
  蕪ナシ右ニ同。
 一、二重蕪、菖蒲形、節形、是モ右ニ同。
 一、当時紋サシタル胡銅ノ花瓶ニ水カケズ花生タル事宗珠迄ハ其沙汰ナシ。御成飾ニ
  桃尻ヲ彫リタル盆ニ据テ花生ル事アリ。其時盆ニ水コボレヌレバ悪キ故花瓶ヌラサ
  ヌ也。其ヲ間違ヘテ水カケヌ歟。又一説ニ水カクレバ紋ノ底ノ垢ヲカチテ悪クナル
  ト也。故ニ新キ汲水ヲバ不入也百練水口伝。
 
とあり,当時の花入やその取扱いのことが述べられており,また「和泉草」「貞要集」
「六宗匠伝記」「槐記」などにも花入のことが記されています。
 
〈床の間に花入を置くこと〉
 書院や広間の床の間,また草庵の床の間に対して最も多く用いられるのは前述の方法
が多く,「古田織部伝書」中には,
 
 一、床に花入置事三所。
 
とあってその三所としては軸先,軸元,軸脇ですが,その真中即ち軸中もありますが,
この三所は普通の場合は床中央,床の左方,床の右方の3ケ所に分けられます。即ち床
に向かって左方が軸先,同右方は軸脇と云われます。大体は掛幅が横物の場合は中央に,
竪幅の場合は軸先か軸脇に置くのがよろしく,また畳床の場合は薄板を敷き,板床の場
合は薄板を用いないことになっています。
 千利休はその口伝中に,
 
 一、薄板の置様花入により少宛相違の事浜の真砂。
 
とあって置様には数多くあると述べ、即ち花の枝振りによって心の規矩カネのあることは
無数であると云います。即ち中形の花入は真中で,大形の花入は少し壁付きの先に寄せ,
小形の花入は少し前に寄せるなど,これを眺める美の神髄を言い表しています。薄板に
は黒漆塗や掻合せ塗,拭き漆塗などや木地そのものもあり,或いは上面を朱塗のものと
して縁だけを黒塗にしたものもあり溜漆塗のものもあります。また縁の仕上げにも蛤端
ハマグリバ,矢筈ヤハズ,燕口ツバメグチなどの両面,片面があり,形にも円形,長方形,方形,
隅切,楕円などがあって床の間の大きさや花入の種類によって選定されており,一般に
は勝手寄りがよいとされています。花入の篭は畳床,板床に用いても薄板は一切用いな
いことになっています。
 矢筈の薄板は普通長方形で,
   表の長さは  1尺4寸3分(43.3p)
   同幅は    9寸3分5厘(28.3p)
   裏の長さは  1尺4寸2分(43p)
   同幅は    9寸2分5厘(28p)
   厚さは    3分(0.9p)
 円形ではその直径は1尺3分(31.2p)が普通です。
 また第十六条には,
 
  花入置様これも花入により少宛違候へとも第一直に。
 
とあって前述のその花入の大中小の関係が記されています。また山田宗扁(彳+扁)著
の「茶道便蒙抄」には薄板と花入との関係や,篭にことについて説明されており,また
「宗春翁茶道聞書」には,
 
 一、花入薄板寸法床框のわき畳の縁から十六目也、是は道庵流。織部流は十八目也。
  左右は真中に置也。花入をば薄板の真中より少先へ寄置也。
 
とあり,篭については,
 
 一、篭を床に置候事、薄板は不置也。篭は夏の物也。但略してハ何時も不苦候。篭釘
  にも掛るなり。
 
とあって篭のことについて述べ,更に「花入之事」の条には薄板の置き方についても記
されています。
 床の間に香炉や香合を飾ったときは花入れを置かないことになっており,また掛花入
釘にも掛けないことになっています。
 
〈花釘について〉
 茶室に花入を掛けるためには花釘があります。即ち床正面の中央に掛ける中釘(向釘
ともいう),床柱に打つ花入釘,床天井に打つ蛭ヒル釘,床の落掛の内外に打つ釘花入釘,
特に正月のみに用いる柳釘があります。
 床正面に掛ける中釘は昔は鉄製の折釘を用いましたが,現今では掛物を掛けるときに
邪魔にならないように釘の中に引込むようになっている無双釘を打ちます。この中釘に
茶花を掛けるときは主として後座の茶会に多く用いられ,その高さは各席によって多少
相違していますが,普通床上面から3尺7寸(112.1p)を標準としています。
 床柱に打つ花釘は柱釘とも云い,この釘は床柱が客付の方にあれば上記の中釘より2
寸(6p)位低く打ち,床柱が勝手寄りの場合は中釘よりも2寸(6p)位高く打ちます。
全て鉄製の折釘を用います。これは客が座って見上げるようになりますので,そのよう
に打つのです。
 床天井に打つ釘は主に釣花入や釣香炉などを釣るためのもので,小形の蛭釘を用いま
すが,小間では床天井の中央で,前後は奥へ中心線から1寸(3p)位入った処に打ち,
天井の上部では「楔止クサビドメ」とするのが定法とされ,書院広間では床天井の中心線の
軸脇の方,即ち明りのある方へ3分の1寄せた処へ蛭釘を打ちます。その鈎は流儀によ
って床正面に向かう場合と床の中央部に向かう場合があって,書院広間では主として双
飾りの場合に用いられます。
 落掛では床の中央部,その外側又は内側に折釘を打って釣舟を掛けます。この折釘は
床柱に打つものよりもやや小形の鉄製のものを用います。
 柳釘は正月に用いる結び柳を掛けるためのもので,普通四畳半茶席では床の勝手寄り
の隅柱(この柱を塗立柱,塗出柱,楊子柱,筆軸柱などと呼びます)に畳面から4尺3
寸(130p)上がり位の高さ,天井から約1尺5寸3分(46.4p)位下がった処(席の天
井高により多少の増減があります)に打つ折釘のことです。これは北野大茶会のとき,
利休四畳半に打ってあったと伝えられ,最近は書院広間などの大床では床内部の隅柱に
打つ習慣もあります。
 その他床の間の花明窓の下地に朝顔釘と称して折釘の先が二つに分かれている釘もあ
って,この場合は特別の小形の折釘を用います。
 床の間の内に掛ける花入釘について「古田織部伝書」中には,
 
 一、床ノ内にかけ候花入れ釘は下より三尺六寸(109.1p)、但花入短くは二寸(6p
  )ニモ三寸(9.1p)ニモ。
 
とあります。現在では客付の隅柱に上記の寸法に準じて打つか,又は別に青竹を添えて
打つ場合もあります。「宗春翁茶道聞書」には,
 
 一、花入杉釘、地敷より三尺三寸(100p)也。但二寸(6p)にも二寸二分(6.7p)
  にも打也。杉釘寸法一分三分惣一分四方
 
とあり、また釣舟掛釘のことなどにも及んで記されています。
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