[詳細散歩]
 
                      参考:北隆館発行「野草大百科」など
 
〈スミレの仲間〉
 古くから「タンポポ、スミレにレンゲソウ」と云われるように、スミレは春を代表す
る野の花である。
 スミレの花は左右対称で、後部に距キョがあるなどの特徴があるので、花を見れば誰で
もそれと分かる。しかし分類となると、それだけに難しくなる。その上、スミレは花期
と花後の果実期では、葉の形質が大きく変化すると共に、更に分類を困難にしている。
 
 スミレの仲間は、大きく茎を伸ばすか伸ばさないかで、有茎種と無茎種に分けること
が出来る。
 無茎種はスミレやエンザンスミレのように、葉が根元から根生している種類で、生育
地からこれを更に三つに分けることが出来る。人家の庭や田畑の畔などに生えるものと
しては、スミレ、ノジスミレ、コスミレ、ヒメスミレなどがある。里山にはシハイスミ
レ、マキノスミレ、フモトスミレ、アカネスミレ、マルバスミレ、ヒゴスミレなど、深
山にはスミレサイシン、ナガバノスミレサイシン、シコクスミレ、エイザンスミレ、ヒ
ナスミレ、コミヤマスミレなどが自生している。これは自生地で分けたもので、栽植す
るとエイザンスミレでも、平地の日影でよく育つ。
 
 有茎種は、タチツボスミレやニョイスミレにように、茎立ちするもので、これも生育
地から三つに分けることが出来る。里山に見られるものとしてタチツボスミレ、ナガバ
ノタチツボスミレ、アオイスミレ、ナガハシスミレ、オオタチツボスミレがある。湿気
を好むものとして、ニョイスミレ、タチツボスミレ、ツクシスミレなど。高原や高山に
生えるものとしてはキスミレ、キバノコマノツメなどがある。
 
 スミレの仲間は全て多年草で、地上部が枯れても、地下茎が生きていて越冬する。無
茎種のスミレは、庭や鉢栽培されるが、わが国の野生のスミレは、忌地性イヤチセイで、同じ
場所で生育することを嫌うので、栽培には手数がかかる。
 スミレはヒョウモンチョウの仲間の食草である。この食草には、忌地性がなく群生す
る西洋種のスミレの方が良い。
 
 菫スミレは墨入れの意で、大工が用いる墨壺に花の形が似ているから、と云われている。
また戦場で用いられた旗印に似ているからとも云う。この旗印は隅取紙と云う方形の紙
を畳んで、折り紙細工のようにしたもので、白又は紫に染められていたものである。
 スミレは「万葉集」を始め、現代までの詩歌文学に採り上げられている。
 
 春の野に菫摘みにと来し吾ぞ 野をなかしみ一夜寝にける 山部赤人
 すみれ摘む野辺の霞にやどとへば ころもをうすみ月はもりつつ 藤原定家
 いそのかみふりにし人を尋ぬれば あれたる宿の菫つみけり 能因法師
 
 万葉時代の菫摘みは、春菜として食用のためであったが、同じ菫摘みでも、後代のも
のになると食用の意ではなくなる。
 
 飯乞ふとわが来しかども春の野に 菫つみつつ時を経にけり 良寛
 
 野菫摘みはもう完全に食用のためではなく、子供の遊びとしての菫摘みと思われる。
 タカネスミレなど高山性のスミレもあるが、多くのスミレは、
 
 山路来て何やらゆかしすみれ草 芭蕉
 
に表されているように、人家の近くに多い人里植物である。子供達は菫の花束を作った
り、相撲取り草の方言でも分かるように、花と花とを引っかけて花相撲をして遊んでい
た。
 
 スミレは世界各地に分布しており、ヨーロッパでもバラやユリと並んで神話や物語、
詩歌に現れている。ギリシャ神話やローマ神話に「ゼウスが恋人イーオーを牝牛の姿に
変えた時、彼女の食物として、牧場一面にスミレの花を咲かせた」とか「太陽神アポロ
ンが美しい娘イアに求愛したが、受入れられなかったので怒り、彼女をスミレの花に変
えた」などの物語がある。また「美少年アッティスの血からスミレが生じた」とか「ペ
ルセフォネが冥界の王ハデスにさらわれた時に摘んだ花がスミレである」など様々な場
面に登場している。更にまたゲーテやハイネ、ナポレオンもスミレの花を愛していたこ
とは有名である。
 ナポレオンはエルバ島に流される時「スミレが咲く頃戻ってくる」と語り、そして、
彼が帰還した時パリ中をスミレで飾って祝ったとか、セントヘレナで死去した際、ロケ
ットの中にスミレの花が入れられた、などの話が伝わっている。
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