[詳細散歩] 参考:北隆館発行「野草大百科」など 〈リンドウの仲間〉 リンドウはわが国の野生種として、ハルリンドウ、フデリンドウ、エゾリンドウ、ミ ヤマリンドウ、トウヤクリンドウなど十数種が知られている。多くのものは碧色なので、 リンドウと云えば藍紫系統の色を思い浮かべるが、高山性のトウヤクリンドウはクリー ム色である。外国では赤花のリンドウも知られている。 花期は夏から晩秋にかけてのものが多いが、ハルリンドウやフデリンドウのように春 咲きのものもある。 リンドウは「古今和歌集」を始め、「枕草子」、「源氏物語」、「徒然草」など多く の古典に現れている。また「本草和名」、「大和本草」、「和漢三才図会」など古い書 物にも載せられている。漢名を龍胆、斜枝大士、観音草と云う。古名は苦菜ニガナ、山彦 菜ヤマビコナ、龍胆エヤミグサ、龍胆草タツノイグサ、別名として狐蒲公英キツネノタンポポ、瘧落オコリオトシ、 思い草オモイグサ、狐小便桶キツネノショウベンタゴなどがある。 方言名として、インビョウタン、オコリ、カラスノショウベンタゴ、キツネノショウ ベンタガ、キツネノショウベンバナ、キツネバナ、ケロリグサ、タヌキノショウベンベ ラ、タワランバナ、チョクバナ、マバナ、ヤチバナ、リンチョなど数多くある。 リンドウはわが国の秋の野草を代表するものであるが、山上憶良の秋の七草には入っ ていない。リンドウを最初に記載しているのは、「出雲風雲記」であるが、文学に登場 するのは「枕草子」からである。清少納言は「龍胆リュナンは枝さしなどむつかしげなれど、 異花コトハナどものみな霜枯れたれど、いとはなやかなる色合ひにてさし出でたるいとをか し」と実にリンドウの生態や風情を、よく捉えて著している。 また「源氏物語」では、台風の翌日の庭を「心をこめてお植えになった竜胆や朝顔が からみついたませ垣もみな倒れてばらばらになっているのを引き起こして(野分)」と 述べ、「くさむらの虫ばかりは、たよりなさそうに啼き細って、竜胆だけが枯れ草の下 からひとり気長に這い出して、しっとり霧を帯びている風情は、堪え難いほどの物悲し さである(夕霧)」などとある。これらは何れも晩秋の山里の情景を記述して効果的で ある。 また、リンドウは薬用としても有名である。学名の属名Gentianaゲンチアナは、この植物 の薬用効果を最初に発見した古代イリリア王ゲンチウス(西暦前180年頃)を記念して、 リンネが命名したものである。ヨーロッパでは古くからリンドウの根で、健胃剤を作り 用いられていた。漢名の龍胆は龍の胆キモの意で、熊の胆よりもっと苦い胆と云う訳であ る。 リンドウの薬効はわが国でも古くから知られており、日光の「二荒神社縁起」に、「 昔役行者エンノギョウジャが日光の山奥で、雪をかき分けて、草を採る兎をみた。兎の採って いるのは薬草で、兎は二荒神の化けた姿であった。行者は、この病気に効く草を霊草と した。」とある。これがリンドウであると云う。「延喜式」にもリンドウが薬材として 山城国、大和国から朝廷に贈られたと云う記載がある。 これらの文学などに現れるリンドウは、ササリンドウとかエゾリンドウと云われてい るものである。ササリンドウと云うのは、葉が笹の葉に似ているためである。エゾリン ドウはオヤマリンドウと云われるもので、信州では栽培され切り花用に出荷している。 野生のものは茎が短く風情があるが、栽培したものは全体的に太さも大きくしっかりし ていて野の風情に欠ける。その他にも、蔓性のツルリンドウは、その赤い実が特に美し い。