03 京都歳時記[花鳥風月]その二
京都歳時記[花鳥風月]その二
参考:淡光社発行「京都歳時記」
〈七月〉
△宵山と夕立
よられつる野もせの草のかげろひて 涼しくくもる夕立の空(新古今集) 西行
露すがる庭の玉ざさ打なびき 一群ヒトムラ過ぎぬ夕立の雲(新古今集) 藤原公経
△夏の夜・短夜
夏の夜をねぬにあけぬといひおきし 人はものをや思はざりけむ 読人知らず
夏の夜のふすかと見ればほととぎす なくひとこゑにあくるしののめ 紀貫之
△夏月
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月やどるらん(古今集)清原深養父
結ぶ手に影みだれ行く山の井の あかでも月のかたぶきにける(新古今集) 慈円
清見がた月はつれなき天の戸を またでもしらむ浪の上かな(新古今集) 源通光
△扇
天の川かはべ涼しき七夕に 扇の風をなほや貸さまし 中務
天の川扇の風に雲晴れて 空すみわたるかささぎの橋 藤原元輔
△納涼
したくくる水に秋こそかよふなれ むすぶいづみの手さへすずしき 中務
松かげの岩井の水を結びつつ 夏なきとしと思ひけるかな 恵慶法師
△嵐山の鵜飼
大堰川鵜舟にともす篝火の かかる世にあふ鮎ぞはかなき 在原業平
鵜飼舟たかせさしこす程なれや 結ぼほれ行くかがり火のかげ(新古今集)寂蓮法師
△七夕祭
こひこひてあふ夜は今宵天川 霧立ちわたりあけずもあらなん(古今集)読人知らず
いかばかり身にしみぬらん七夕の つま待つ宵の天の川風(新古今集) 藤原兼実
いとどしく思ひけぬべし七夕の 別れの袖における白露(新古今集) 大中臣能宣
アジサイ 六月から七月に,街の家々の庭にはアジサイの大きな花房が色付きます。ア
ジサイは茎の軟らかい落葉低木で,葉は大きくて厚い。花弁・雄蕊・雌蕊は退化し,
美しいのは萼片ガクヘンで,空色から淡紅色です。果実は普通実りませんので,株分けに
より殖やします。アジサイは暖地の海岸に野生するガクアジサイから出たもので,鎌
倉時代に関東地方から園芸化されたと考えられます。室町時代の「尺素セキソ往来オウライ」
では防葵花と書いています。近年は低くて葉も小さいセイヨウアジサイがよく栽培さ
れています。これもガクアジサイから出たもので,ヨーロッパにおいて改良されて,
花の色に変化が多く,鉢植えに適しています。
ヤマアジサイ ヤマアジサイは,京都周辺の山中のやや湿った木陰によくある落葉低木
で,茎は束生し,下からよく分枝して,高さ1m内外,花は六月~八月,本年の枝の先
に多数の花が混み合って付きます。花序の縁にある花は,3~5枚の萼片が大きくな
り,空色で美しい。花序の中にある花は小さいが,花弁・雄蕊・雌蕊があり,果実は
実ります。本州の関東地方以西の太平洋岸から四国・九州・朝鮮南部に分布します。
この野生のものの中に時に葉を揉むと甘くなるものがあります。アマチャはヤマアジ
サイから選ばれたものです。
ハス ハスは,池や水田に栽培する多年草です。京都には蓮池のある寺があります。ハ
スの花は七月~八月で大きく美しい。仏と結び付いたのはインドですが,それが伝来
して仏 は蓮台の上に定着し,ハスは仏事に独占されているようにも見えます。京都
の近くの洪積コウセキ層からハスの果実の化石が出ますし,葉の小さい野生のハスが稀に
残存しており,ハスはアジア大陸からわが国に野生していましたが,現在食べるハス
は中国から伝来したものです。ハスの地下茎は蓮根レンコンで,花の散った後の花床はハ
チの巣に似て穴があり,中に甘い果実があります。古くハチスと云ったのがハスとな
りました。花弁の散った1枚は散り蓮華レンゲで,それを象った匙で食べるのが散り鍋
です。京都府立植物園にはいろいろな品種が集められてあり,蓮池もあります。
はちすばのにごりにしまぬ心もて 何かは露を玉とあざむく(古今集) 遍昭
アサガオ アサガオは七月下旬から八月に咲きます。熱帯アジアに広くあると云います
が,ネパールには花や種子の小さい種が野生しています。このような種が古く中国に
入り,種子が薬用にされるうちに,大きな種子に改良されました。牽午子ケンゴシとして
「新修本草」(659)にあるのはアサガオですので,その頃は中国において薬用にして
いました。わが国においては「本草和名」(918)に牽午子をアサガオとしており,栽
培されていました。江戸時代に園芸植物として大きく改良され,今のアサガオとなり
ました。「万葉集」のアサガオはキキョウとする説と,今のアサガオとする説とがあ
ります。京都おいてはアサガオ愛好家が多く,毎年府立植物園においてアサガオ展が
開かれています。
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