[詳細探訪] 参考:小学館発行「万有百科大事典」 〈松竹梅と瑞祥植物〉 松と竹と梅とを組み合わせた松竹梅は、元モト中国から起こったもので、中国ではまた これを「歳寒三友」とも云っている。「歳寒」も「三友」も共に『論語』から出た名で、 この組合せは、松や竹に霜雪に耐えて常に千年の緑を保ち、梅は霜雪を凌シノぎ百花に先 駆けて馥郁フクイクと香ると云うところから、これを君子の節操に喩えたものである。 わが国では更にこれに目出度い意を含め、絵画、染物、彫刻の図柄にしたり、生け花 として正月や慶事の飾り物にするようになった。 この3種の組合せは実に意味が深く、形の上から云っても、また色彩の上から見ても 調和が執れて面白いもので、中国では古く唐の時代(618~907)に起こっているが、わ が国の起源は明らかでない。しかし、松や竹を神聖視し、これに目出たさを意識してい たことは、上代より起こっていると云ってよい。即ち上代の民族思想は、常緑樹崇拝の 時代で、特に松は祭木マツリギの略とも云われているように、神木とされ、門松の思想も茲 ココに出発している。門松と云う名がわが国の文献に初めて見えるのは『堀河院百首』で あるが、少なくとも堀河天皇の頃(1086~1106)には、この行事行事が民間の風習にな っていたことが推察出来る。しかし、この時代はただ松を門戸に立てることであったが、 鎌倉・室町時代になるとこれに竹を添えるようになった。これは竹も松と同様、色も変わ らぬ生長振りに目出たさを汲んだもので、更に江戸時代に至って、この松竹に梅を添え るようになった。それは常緑に色を添えたものであるが、梅はまた風流ミヤビの花として、 古来人々に愛されていたからでもあろう。 わが国の瑞祥諸としては、この他ダイダイ(代々相続して子孫繁昌の意)、ユズ(悠 々に通わせる)、タチバナ(古来嘉祝カシュクの品)、ウラジロ(寿命長久の意を通わせる )、コンブ(よろこんぶの意)、ユズリハ(親子代々相譲って子孫繁昌)、ホンダワラ (穂俵に目出度い意)、トコロ(長い髭に長寿を祝う)、カキ(掻き取るの意)、カヤ の実(延寿)、フクジュソウ(福寿の意)、オモト(万年青)、それに常緑のヤドリギ とヒカゲノカズラ、難を転ずる意に採ってのナンテンなど、皆古来瑞祥植物とされてい る。 こういう瑞祥植物のことに関しては、必ずしもわが国ばかりではない。 中国では桃、菖蒲、菊、茱萸シュユ、瑞竹(両岐竹)、瑞運(一茎多花)、霊芝レイシなど がある。 また西洋ではクリスマス・ツリーのトウヒ(ドイツトウヒ)、ホリー(西洋ヒイラギ )、ミッスルトウ(西洋ヤドリギ)、ヒカゲノカズラ(クリスマス・グリーン)など、何 れも常緑を主としたわが国の思想と通ずるものがある。 平和の象徴シンボルとしてのオリーブ、栄誉の冠となるゲッケイジュ(月桂樹)もある。 またスペイン辺りでは、沢山の実の成るオレンジを子孫繁栄の意味に通わせて、結婚式 などにオレンジの花を飾るなど、皆瑞祥植物の一つと考えられるもので、民族の思想は 世界に共通しているのである。