09 発酵の力で心身豊かに〈奇跡の発酵「河豚の毒抜き」〉
 
                     参考:NHK人間講座「発酵は力なり」
 
〈奇跡の発酵「河豚フグの毒抜き」〉
 
△食べ物の周辺に潜ヒソむ毒
 大部分のフグには毒があり、一番強い毒は卵巣にあり、また皮膚にまで毒を持ってい
るフグもあります。
 フグの卵巣は、鮮やかな赤味のある山吹色で、それは官能的とも云え、フグの部位の
中で一番美味しそうに感じられると、その道の料理人は云うとのことです。この猛毒を
テトロドトキシンと云います。
 
△フグの卵巣の糠漬け
 「フグの卵巣の糠漬け」は、200年前から石川・富山・新潟県の辺りで行われていまし
た。
 糠味噌には乳酸菌と酵母が沢山含まれていますが、それは乳酸菌や酵母には耐塩性が
あるためです。この糠味噌に野菜などを漬けて置くと、耐塩性乳酸菌など沢山の耐塩性
発酵微生物が其処に棲息して、腐敗菌は追い払われるのです。
 この糠味噌に魚を漬け込んだものが「こんか(米糠)漬け」で、石川・福井・富山県辺
りの鯖のこんか漬けが有名です。
 このようにして、石川県美川町では、フグの糠漬けを名産品として全国に出荷してい
ます。
 
 △解毒発酵の仕組み
 まず30%程の食塩水の中にフグの卵巣を入れて1年間塩漬けし、その間、2,3ケ月
に一度、塩を替えて漬け直します。卵巣はとても小さくなるが、猛毒のテトロドトキシ
ンは一部からしか出て来ません。
 次に真水に入れて少し塩抜きし、糠味噌の桶の中にぎっしり漬け込みます。このとき、
麹と鰯イワシの塩漬けを少し加えます。重石をして三年間、そのまま発酵させます。
 このようにして、テトロドトキシンが耐塩性乳酸菌と耐塩性酵母によって分解され、
アンモニアと炭酸ガスになってしまうです。
 
 何故日本人のみが、このように発酵による解毒をしてまで食べるのでしょうか。
 一つには、なるべく食材から無駄を出さないで料理する、と云う日本料理の伝統、或
いは掟なのでしょうか。
 二つには、魚食民族の面子メンツに賭けて、毒を持つ魚まで食ってしまおう、と云う執念
でしょうか。
 三つには、漬物王国の底力でしょうか。
 四つには、「何でも食ってやろう」と云う食への好奇心に駆られた冒険心とでも云い
ましょうか。
 
 フグの卵巣の糠漬けは、薄く切ってほぐし、ご飯や鮭の肴にし、お茶漬けや軽く炙っ
て戴きます。
 
△土壌微生物による解毒
 鹿児島・沖縄県辺りの諸島には、「蘇鉄ソテツ味噌」があります。
 蘇鉄の赤い実は沢山の澱粉を持っているが、ホルムアルデヒドと云う毒があります。
 そこで実を二つに割って日干しし、甕に入れて水を加え、暫く浸してから水を掬スクい
出して数日間発酵させます。すると空気中の微生物によってホルムアルデヒドが酸化さ
れて蟻酸になり、更に分解されて二酸化炭素と水になります。
 これを水で洗い、日干しして乾燥させて臼で粉末状にし、蒸してから蓆ムシロに広げて
2,3日置くと、麹菌が付着して蘇鉄麹が出来ます。この蘇鉄麹に、煮た米と塩を加え
て甕に入れて置くと、耐塩性乳酸菌や酵母が其処に棲み着いて発酵し、蘇鉄味噌が出来
上がります。
 また蘇鉄の実は、土の中に埋めて毒抜きする処もあります。
 なお、ギンナンも土に埋めて、土壌微生物によってかぶれる成分を分解させます。
 
 ポリネシアでは、パンの木の実を土に埋めて、アクの成分を抜きします。
 中国雲南省やミャンマーの山岳民族は、野生の茶の葉を煮てから竹の筒に入れ、土
の中に1年程埋めて、タンニンやポリフェノールなどを減らしてから食べると云います。
                                  (本稿終)
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