51 うまい酒の肴
 
        参考:KKR(H10.12.10発行 筆者:北陸病院栄養科長植田洋子氏)
 
 お酒を飲む機会の多い人や,お酒を比較的多く飲まざるを得ない?人にとって,身体
が良くなる上手い酒の肴を考えてみました。
 アルコール1g当たりのエネルギーは7kcal(キロカロリー)ですから,アルコールは高エネ
ルギー食品の範疇に入ります。然もアルコールは, 中身のないエネルギー食品なのです。
つまりご飯を例に採りますと,ご飯はエネルギー源に属すると同時に,ビタミンB1,
B2も備えている食品ですが,一方のアルコールはエネルギーしか持っていない食品なの
です。
 
 体内でエネルギー源が働くとき,ビタミンB1,鉄,銅,マグネシウムなどが必要です
が,エネルギー自身にこれらの蓄えがないときは,負債をしてまでその働きを全うしな
ければならないのです。ここで云う「負債」とは「不足する」ことを意味し,これらの
栄養素が不足しますと,疲労物質が溜まって身体が怠ダルい,毛が抜けやすい,湿疹が出
来やすい等の症状が現れます。
 例えば,生命活動に必要なビタミンB1は成人で1日1mg摂らなければなりませんが,
清酒1合飲む毎に0.07mg多く摂る必要があるのです。
 よく酒の肴は「漬物」さえあれば良いと云いますが,これでは体中の養分が酒の分解
のために吸い取られてしまいます。いわゆる「酒に飲まれる」飲み方となります。お酒
を飲むときはアルコール分解を助けるために,普段以上にこれらの栄養素を必要として
いるのです。偏った食事ではじわじわと不定愁訴が訪れ,血液の成分がそのうち赤信号
を送ることになるのです。なお不定愁訴フテイシュウソとは,明白な器質的疾患が見られないの
に,様々な自覚症状を訴える状態を云います。
 
 何せ人間の身体の中は「食べた物」以外で作られる物は,何一つとして存在しないの
です。ところが幸いなことにビタミンB1を標的ターゲットに摂っていますと,他の栄養素も
必然的に必要量を確保出来ます。そこで酒好きの方のために,ビタミンB1を標準とした
献立表を考えました。
 
[酒の肴の献立表]
                        注:数字はビタミンB1の含有量
〈穀類〉
○ライ麦パン1枚とピーナッツバター小匙1杯のサンドイッチ 0.15mg
○蕎麦粉8割のざるそば 一人前 0.15mg
〈種実類〉
○胡麻小匙1杯で 0.02mg 摂れるので,胡麻は食卓の調味料に最適です。
〈芋類〉
○山芋50gに,鶉ウズラ卵1個の掛け 0.12mg
〈豆類〉
○厚揚1/4枚とピーマン3個のフライパン焼き 0.13mg
○豆腐半丁(0.15mg)と昆布10cm四方(0.1mg)の湯豆腐
○木綿豆腐1/4丁と韮ニラ1束,豚挽肉大匙1杯のマーボー豆腐 0.01mg
〈果実類〉
○パイナップル・メロンは各3切れ 0.14mg
〈野菜類〉
○もやし1/4袋を茹でて,枝豆20粒と和える 0.18mg
○しめじ半パックの白胡麻和え 0.1mg
○長葱の煮付け,玉葱のお浸し,韮の炒めもの,浅葱アサツキのサラダなど 50gで 0.02mg
○オクラをさっと茹でて味噌付けとか,刻んで納豆和えなど 5本で 0.1mg
〈魚肉類〉
○焼豚2枚と莢隠元サヤインゲン5本 0.35mg
○豚肉薄切り2枚(肉の重さ100g)と芽キャベツ5個を固形スープで煮る 1.0mg
○鰻蒲焼1/8本と胡瓜の膾ナマス 0.23mg
○刺身(鰤ブリ・鯛タイ・鮪マグロ) 一人前 0.15mg
 
 大豆は植物性の,豚肉と鰻ウナギは動物性のビタミンB1の横綱です。野菜にもビタミン
B1が多く含まれているものもあります。
 なお,酒の肴の難点は肥満をもたらすこともあることです。酒の肴で太らないために
は,@油を使い過ぎない,A量を少なく品数多く,B薄味付けに慣れる,C野菜・茸キノコ
・海藻などの低エネルギー食品を採り入れる,D脂肪肝を作らないために午後9時過ぎ
の会食は避ける,ことが必要です。
 植物繊維の多い食品は,強壮強精に役立つと養生訓にも記されておりますので,積極
的に摂りたいものです。上記献立は食物繊維にも配慮しています。
 
 ところで「酒に強い」と云うことは,分解酵素「メオス」の活性が高まり,アルコー
ル処理能力が速くなっていることであり,その分だけ「下請けの肝臓」は酷使されてい
るのです。俗に云う「酒に強い」ことは「肝臓が強い」のではないのです。
 飲酒にも完全週休制を採り入れ,お酒を一層美味しく頂いて下さい。そして酒の肴で,
@疲れを取り,A病気にならない,B明日への元気がみなぎる,ようにして下さい。
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