03 竹文化〈竹利用〉
竹文化〈竹利用〉
〈竹細工の伝承〉
△古代の竹細工
古代の竹利用については,竹稈,竹の皮,枝条など腐りやすく,燃えやすいために,
保存にほど良い条件が揃わないと残存しません。
・縄文時代末期の藍胎漆器:青森県八戸市是川町遺跡からは竹製の編みものにウルシ
を塗ったいわゆる藍胎漆器ランタイシッキが発見されています。これは泥炭層のなかで腐らず
に残ったものです。
・弥生―古墳時代の笊:兵庫県尼崎市田能中ノ坪田能遺跡から昭和41年11月に竹笊タケ
ザルがほぼ完成品の形で,大小2個,いずれも丸型のものが発見されました。
弥生時代の竹の網代アジロ編は静岡県登呂トロ遺跡からメダケを裂いて編んだものが発見
されましたが,乾くと姿が崩れたとのことです。
・筍寿し:京都市一条寺竹の門町曼殊院跡の竹の御所に優雅な筍寿しが伝わっていま
す。筍の両端を切り落として10pにし,コンブを入れたままことこと3時間煮ます。別
にご飯を炊いて,にぎり寿しのようにしたご飯を筍の内側にのせ,それを竹の皮に包ん
で,重石(まな板など)を2時間してご飯をなじませます。筍は黄金色,ご飯は真白,
まことに純なお寿しです。
・1200年前の竹の排水施設:昭和44年11月京都府乙訓郡向日町森本,京都御所の前に
都づくりされた長岡京跡の土中から,防湿,排水のためのハチクの排水施設が発見され
ています。
・江戸末期の竹の用水路:東大阪市横小路町馬場川遺跡から昭和45年8月に,マダケ
を半分に裂いた,江戸末期のものと思われる農業用水路が発見されました。
・元禄時代の竹の皮の記録:正倉院の御物のなかに,元禄時代の竹の皮の記録があり
ます。それは,「苧チョ縄六筋,竹皮一把,右は御封の用なり」と,御緘トジの外皮の白
紙を竹の皮で覆い,細い麻糸でまとって勅封させる様子のものです。
△のこされた文化
農山村では今でも,昔の竹細工の盛んだった頃の様子が残っています。そのうちでも
鹿児島県は,”薩摩はさすがに竹の国である”とつくづく感じます。
・船に竹網:マダケの筍が生長して若枝が伸びた3年生の夏土用の頃,ちょうど竹の
皮が離れようとする頃の竹稈から作ります。伐採しました竹稈を3mに切り,幅2〜3
pに割り,さらに薄く剥ぎ,火の上で竹脂を除いて炎天に4日間晒します。これを数日
間水につけたものを3本よりによって竹綱を作ります。この竹綱は舟綱にしたり,筏を
結んだり,雅味な自在鈎を吊ったりします。
・弥生文化の竹箒:鹿児島県ではカンザンチク(デミョウチク,大名竹)の2,3年
生の枝先を葉をつけたまま40pばかりに切り,1側面に数本ずつをコウモリカズラの蔓
で4,5段に巻いて結びつけて作ります。
茶室などに立てかける竹箒は,晩夏から秋にかけて葉が少し固まったものを,晴天に
1日からっと干し上げますと緑色が多く残って美しく,また弥生文化の匂いが感じられ
ます。
・竹製文化の県:他地方では珍しい鹿児島県の農山村などにおける各種の「笊ザル」
をご紹介しましょう。
・・茶べら:直径1mくらいの麦藁帽子の形をしたもので,茶を乾燥させます。
・・いねてご:傷つきやすい草花などを荷なうもので,浅い底の平たい大笊に紐の代
わりに割竹を使用します。
・・枇杷篭:桜島名物のビワを持ち運ぶ篭です。黄金色をしたモウソウチクの,底が
角で低く,手がついて中のものが腐らないように風通しをよくしています。安価で軽く
丈夫で美しい篭で,使用後は焼き捨てます。
・・箕ミ:穀類をふるうもの,竹稈の皮ばかりで編んだもの,ツヅラフジで丁寧に縁
どりしたもの,角ばったもの,角スミをサクラの樹皮で編み込んだもの,置物用に小さく
直角にしたものなど,幼い頃の農作業の思い出から,古代日本への郷愁へと走馬燈のよ
うです。
・・飯篭(ごはんじょうげ):夏期のご飯を入れておくものです。軒に吊るす扁平の
もの,持ち運びに便利な腰高のものなどいろいろ工夫して作られています。
・・塩篭:逆三角錐の篭で,天井に吊って苦汁ニガリがうまくしたたるように工夫して
あります。花生けや小物入れにも活用できます。
・・びく:釣った魚を入れる篭で,凸形でいかめしい大型のもの,中央が膨れたもの,
入り口の大きいもの,花筒形の丸いものなど,素朴,剛胆のもりばかりです。
・・しょうけ(そうけ):箕を小さくしたような篭で,小判形,二等辺三角形,楕円
形,四角形,矩形,円形など,手のついたものやついていないものなど,長い長い生活
知恵の結晶です。
・肥料にクマザサ:広島県比婆郡では,牛馬にクマザザの一種(ヤネフキザサ,チュ
ウゴクザサなど)を食べさせてその厩肥を施した品質の優れた広島米を産したり,島根
県大津地方では,クマザサ類を田に踏み込ませて美味しい米を作っています。
△笹舟の信仰
島根県出雲大社では,毎年10月1日には神々は笹舟に乗ってお集まりになられるとの
ことです。
三重県山田地方では,毎年7月6日の夕,笹舟で祖先の精霊をお迎えするそうです。
また,後醍醐天皇は海が荒れ狂うとき,海の女神を御慰問申し上げるために笹舟をつ
くって放たれました。この笹舟へは八百万ヤオヨロズの神々がお乗りになり,女神のみ心を
慰め奉るために,多くの神々の奉仕ということから八艘の笹舟が作られて放たれる慣わ
しになっていました。
新潟地方のお祭どきには”笹舟寿し”が作られます。新生のチシマザサで笹舟をつく
り,飯とエビやイカの種を乗せ,箸を使わないで舟を掌に載せていただきます。
笹舟は笹葉が十分に伸びた枝から引き抜き,葉鞘ヨウショウの柄10pばかりをつけます。
柄は折り返して帆柱にします。
△松竹梅
松竹梅の「松」は裸子植物の代表,「梅」は双子葉植物(被子植物)の代表,「竹」
は単子葉植物(被子植物)の代表として選ばれたものとしたら,まことに興味深いと思
います。なお,お正月の門松には必ずマダケを用います。
△竹と火の発達
人類の進化の過程において竹と火のつながりを見逃せません。竹類と火の繋がりにつ
いて時代順に述べます。
・火とバンブー:東南アジアのマレー地方では,竹稈の摩擦によって発生した火を採
って利用し,そこから人為的に竹を摩擦させて火種をつくることを学びました。
・燃料:竹材は固くて油が多く含まれてよく燃えて灰が少ないですが,火力が強すぎ
て釜などを傷めるので,燃料としては嫌われてきました。
・ボヤ:バンブーなどは勢いよく燃えてすぐ消えますので,このような薮火事をボヤ
の代表といえます。
・ヨドロ:ネザサや雑木の生えているところの薮を竹のヨドロといい,竃の焚き付け
とします。ヨドロのことを兵庫・岡山などではタコラ,淡路ではオドロ,三重ではダズ
などと呼んでいます。
・串:メダケ,ヤダケ,ネザサ,ゴキダケなどは,囲炉裏の焼き串として用います。
・松ろうそく:東北地方の雪の季節は,松脂を棒状にしてクマザサの葉で包み,タツ
ノヒゲの葉で数ケ所結んだ”松ろうそく”をあかし立てに立てて,あかりとしました。
・竹松明:竹細工の盛んなところでは竹屑を束ね,ネマガリダケのある地方では稈を
1mくらいに切り,10本程度を束ねて火をつけます。キャンプ場では昔を偲んで竹松明
を灯したりしています。
・火吹竹:囲炉裏で火吹竹を吹いて,飛んだ灰が吹雪にように散ることを,俳句では
「竹の声」といい表します。喜寿の7月7日にはマダケの青竹で火吹竹を作って健康で
あることを祝って,おすそ分けしたり,米寿における長寿,火難防止の祝い物とします。
・火口:火口とは火打石による火種を着火させる竹屑です。
・竹炭:スズタケなどの竹炭は一律に細孔があって吸湿性が一定ですので,ラン栽培
のとき鉢の底に入れます。
・蝋燭:外来の筒掛けろうそくは,細い竹を二つに割って,中へ芯をおき,蝋を流し
込んだものです。
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