13 太古の面影探索への誘い〈化石の探し方〉
太古の面影探索への誘い〈化石の探し方〉
〈化石産地〉
自分たちの住んでいるところ,あるいはどこかある地方で,そこの化石の勉強を始め
ようとするとき,まず化石産地をしらなければなりません。
化石の産地については,その地方で化石のことに詳しい人,学校の先生,付近の農家,
工事現場人等,いくらかでも地層と縁のありそうな仕事をしている人にまず教わってみ
るのがよいです。ここで特に知っておいてよいことは,地方の小・中学生の男の子に尋
ねてみるということです。彼らは都会の子と違って,小さいときから自然の中で育ち,
付近の化石産地などは,いつのまにか知っているものです。
最近では,どこの市町村でもその土地の歴史を記した史誌のようなものがあって,た
いていの場合,化石産出の記録も記されています。地方によっては地学同好会のあると
ころもあって,同好会誌など出版されている場合があります。それから,各県庁の所在
地には理科教育センターがありますし,県立や市立の博物館のあるところも増えてきま
した。そういうところはいろいろと資料もあるでしょうから,野外に出る前にそういう
ところで下調べをしておくのもよいでしょう。
普通の文献としては,その地方に関する既発行の五万分の一の地質図や地質学雑誌・
古生物学雑誌などの学術報告をもとにして,化石の含んでいる地層や化石産地のことを
知ることができます。しかし,これらの雑誌は,学会会員になるか,大学や博物館の図
書館に行かなければ見られません。
そこで化石採集にあたっては,あらかじめ化石産地名・地層名などの参考文献によっ
て,目的に応じてそれらの地方の県地図,五万分の一あるいは二万五千分の一の地形図
を買い求め,地形図中で産地名を自分で探すのがよいです。これは楽しい作業です。
いずれにしろ,化石採集の予定地は,はじめのうちは自分たちの住んでいるところを
中心とし,慣れてきましたら,だんだんと行動半径を広げていくようにしたらよいでし
ょう。
〈服装と用具〉
化石採集のときの服装は,採集に行く場所や採集計画により多少異なりますが,登山
・河釣り・ハイキングなどの服装と共通的なところがあります。要するに,沢歩きや山
登り,あるいは海崖などで地層を調べながら化石を採集していくに際して,能率的に行
動できて,しかも丈夫であるような服装とします。例えば,上衣やズボンに大きなポケ
ットがいくつもあると,こまごまとした調査用具を入れることができてよいでしょう。
膝ヒザまで水に浸かろうと,砂や泥にまみれようと,少々の岩屑が当たろうと大丈夫で
あることにこしたことはありません。登山帽・キャンプ用ジャンバー・登山ズボン・キ
ャラバンシューズあるいは地下足袋に,登山用靴下などというような出で立ちはよく見
られます。もちろんハイキング的な化石採集の場合は,それ向きに軽装であっても構い
ませんし,逆に非常に落石の危険のあるような場合は,登山用ヘルメットを使用するこ
とを薦めます。
次に,基本的に必要な調査用具を挙げておきます。ハンマー(1〜2ポンド),タガ
ネ(大小の丸タガネと平タガネ),クリノメーター,ルーペ(虫メガネ),地形図(五
万分の一,二万五千分の一),野帳(フィールドノート),鉛筆,消しゴム(消しゴム
付きシャープペンシルなどはポケットに安全に保管できるので便利です),折尺又は巻
尺,包装紙(古新聞紙など),採集袋,リュックサック,カメラ,マジックインキ(最
細字用の黒・赤など,化石や岩石に採集地名・番号を記入するため),このほか,タオ
ル,チリ紙,弁当,水筒などを持っていきます。
ハンマーは無論,岩を割るためのものですが,使途に応じていろんな種類のものがあ
ります(後述)。タガネは地層中から化石を取り出すのに使用します。これは,普通の
金物屋でタイル切り用のいろんな種類を売っています。
地形図は地理調査所発行のもので,地図店や大規模書店で販売しています。
野帳は固い表紙で各ページが方眼になっているものがよいです。化石の詳しい産状や,
採集日誌,ときにはルートマップの記入などを行います。デパートや測量器具店で売っ
ています。
折尺や巻尺は,化石産状や地層の厚さなどを測るのに使用します。
包装紙は化石を包むためのもので,包装された小さな化石は採集袋に納められます。
地形図は採集ルートの検討,産地の位置記録,地質図の記入のために必要です。
クリノメーターは,地形図の北とクリノメーターの磁北を合わせて自分の位置を確認
したり,地層の走向(水平方向の伸びの方向),傾斜(傾きの具合)を知るために必要
です。
〈採集計画〉
文献や地図など(前述)により化石産地を知れば,次に化石の採集計画を立てなけれ
ばなりません。県地図・地形図・時刻表をもとに,出発日時,宿泊予定,調査ルート,
バスや列車の時刻,帰宅日時を書いてみます。宿泊施設があるかどうかなども調べてみ
なければなりません。調査区域内の鉄道の駅やバス停留所まで何時にたどり着けば無事
帰宅できるかを,あらかじめ調べられるだけ調べておきます。手元で不明の場合は,現
地に着き次第,各停留所で調べてノートに書き留めたり,地方の小時刻表を入手するよ
うにします。化石の採集地点から駅や停留所までの距離を調べておいて,重いリュック
を担いで自分の足で何時間かかるかというようなことを細かく計算しておく必要があり
ます。特に化石産地のあるようなところは,田舎で乗り物の便が悪いですから,最終バ
スや最終列車に乗り遅れないように,十分考慮しておきましょう。時間を十分過ぎるほ
どとっておくことが必要です。夕方遅くなって薄暗い山道や沢のなかを急ぐ帰路には,
思いがけぬ危険なめに遭うことがあります。過って転んだり怪我をしたりすることはい
けません。目前にバスや列車が止まっているのを見て,重い荷物を背負って走ったりす
ると,急に腰を痛めたり,心臓発作を起こしたりすることがないとはいえませんので,
年配の人は十分に気をつけなければなりません。この点,自分で車を運転できる人は好
都合です。
出発の時刻には,1日巡検のときには家族に,数泊旅行のときは宿の人に,どういう
コースでどこの沢に入るかということを,よく言っておく必要があります。めったに人
の通らないような沢の中でないにしても,知らない土地で何か事故にでも遭ったときに
は,すぐに探し出すことができるからです。
ある場所にはじめて化石採集に出かけるときは,どんな岩の中に,どんな状態で化石
が入っているかもまだ具体的には分からないし,土地の便も不明なので,採集時の服装
や用具の点で,無駄なものを持ち込むことが多いですが,同じ産地に2度目以後訪れる
ときには,かなり要領よくいくものです。回数を増すにつれて,服装や採集用具,文具
の使い方の上で工夫を凝らしていくといいでしょう。
〈発見のきっかけ〉
採集計画のスケジュールに従って,いよいよ化石採集に出かけることになります。肉
眼で見ることのできる普通の大型の化石を探すには,新鮮な母岩が出ている露頭を探す
ことです。それはどこにあるかというと,例えば,岩石海岸・沢・道路の切り取り,採
石場など工事現場です。それでは,そういったことを事実によって例示してみましょう。
△岩石海岸
海岸に沿って海崖ができているとき,特に潮が引いているときに堆積岩の露頭をよく
観察し,転石をよく叩くことが大切です。
イギリスの少女メアリー・アニングが世界で最初の魚竜や首長竜を発見した産地は,
同国の南海岸ライム・レジスの岩石海岸です。そこは,潮が引いたときには,岡の上か
ら海崖の下へ降りて,浜伝いに化石探しをやれるようなところです。特に嵐のあと露頭
が新しく崩れたり,埋まっていた岩石が再び掘り起こされたりしますので,化石発見の
可能性が増すのです。化石や転石が洗い出されて磯・浜に打ち上げられることもありま
す。
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