03 樹陰に苔生す岩やその仲間〈広義の地質学と土木地質学〉
 
   樹陰に苔生す岩やその仲間〈広い意味の地質学と土木地質学との違い〉
 
〈広い意味の地質学と土木地質学との違い〉
 地質学の分野には,地史学,層位・古生物学,岩石学,鉱物学,燃料地質学,鉱床学,
堆積学,構造地質学などがあり,いろいろな専門に細分されて研究されています。
 「地質学は歴史学である」といわれています。山岳や平野は,生成からそれぞれの長
い歴史を秘めて現在に至っていますので,その歴史の一頁一頁を解き明かす学問が,地
質学であるとみてよいわけです。
 松尾芭蕉が訪れた頃(1688年)は,現在の宮城県の松島のようであった名勝の地,秋
田県の「象潟キサガタ」が,その後の大地震(1804年)によっていっきに9mあまりも隆起
した結果,今では陸化して,入江のあとは田ん圃になり,海に浮かぶ島々は丘になって
います。
 「万物は流転する」の思想は,地質現象に接する者にとりまして,ひしひしと身に感
じます。南アルプスの赤石岳を訪れた人たちは,登山途中の渓流や山腹にしばしば赤石
岳の名の由来となった赤紫色の頁岩ケツガンを見ることができます。この頁岩には,太古
の微妙な放散虫ホウサンチュウが無数に含まれており,放散虫は,この頁岩が海底に泥土とし
て堆積していた頃の海の生物で,かつて,赤石岳の付近は海底であったことを如実に示
しているわけです。このように,地層の生成を生物の進化発展史の姿のなかで研究する
部門の地質学を,地史学 historical geology と呼んでいます。
 これに対して,一応「時間」を棚上げして,風化の速度,地すべりの形態,温泉や岩
石の成因,火山現象などを物理的,化学的な知識をもとにして解釈し説明しようとする
部門があります。このような地質学を総称して,普通地質学もしくは物理地質学 phis-
ical geology と呼んでいます。
 土木地質学は普通地質学に属する領分を多く含んでおり,他の地質学と異なる点は,
「土木工事に奉仕する地質学」であるということです。
 
                参考 「やさしい地質学」築地書館株式会社発行

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