12a 森林の土を掌に〈土壌の化学的性質〉
 
〈土壌の養分の保持機能及び置換性塩基〉
 土壌は水と混じると粘着性のある塊となりますが,このような土壌粒子を集合させる
性質や,養分を保持する機能などは土壌コロイドの作用によるものです。また,土壌コ
ロイドは土壌中で行われる化学反応や,理化学性などにも重要な働きをなしています。
 △コロイド
 液体に溶解した物質の分子やイオンが大きく,10^3〜10^9個くらいの原子からできて
いる場合や,物質が溶解しないで固体のまま溶液中に存在してその粒径が100〜1ミリ
ミクロンの微粒子となって液体中に分散している場合には,これらの微粒子は凝集・沈
澱しませんし,半透膜も通過しませんし,また拡散し難くなります。気体や固体中でも
分散した状態を保つことがあります。このような状態をコロイド状態と呼びますが,コ
ロイド状態の物質の全体をコロイドといいます。
 △塩基置換容量
 土壌コロイドはマイナスの荷電が非常に大きいので,多数の陽イオンを電気的に吸着
結合させることができます。この能力を塩基置換容量と呼んでいます。
 表層でのおおまかな目安は,黒色土は40〜50me,褐色森林土,ポドゾル及び暗赤色土
などは20〜40me,赤・黄色土では10〜20me,受触土や未熟土では約10me/100gです。
 △塩基置換及び飽和度
 陽イオンのなかの金属イオンであるカルシウム,マグネシウム,カリウム,ナトリウ
ムなどの量は,土壌の性質や肥沃度に密接に関係し,置換性塩基と呼ばれています。
 一般に肥沃な土壌ではカルシウム>マグネシウム>カリウム>ナトリウムの順に置換
性塩基の量は減少します。カルシウムやマグネシウムの多少が土壌の肥沃度の指標の一
つとして用いられてきました。
 しかし森林土壌では,土壌によって塩基置換容量が異なるため,最近では置換性塩基
の飽和度,すなわち含有率(me/100g)/塩基置換容量(me/100g)(%)で示した飽和
度が一般に用いられるようになってきました。
 わが国の一般の森林土壌では,置換性カルシウムの飽和度は40〜50%,カルシウム+
マグネシウム飽和度で50〜70%程度が最高でしょう。
 △植物の土壌養分の吸収
 植物は根系を通じて土壌溶液中に溶解している各養分元素を吸収同化します。
 土壌溶液中の水素イオンが多くなると,吸着されている塩基イオンと交換されて,水
素イオンが吸着され,塩基イオンが土壌溶液中に放出されますが,土壌コロイドに吸着
されている陽イオンと,土壌溶液中の陽イオンの間には一定の平衡関係が保たれていま
す。
 植物の根,土壌動物及び微生物は呼吸作用によって二酸化炭素を生成します。二酸化
炭素は水に溶解して炭酸と呼ばれる弱酸を形成し,解離して水素イオンを生じます。こ
れらの水素イオンは土壌コロイドに吸着されている他の陽イオンと置換されて,陽イオ
ンが土壌溶液中に遊離し,細根によって吸収されます。
 
〈土壌の反応(pH),置換酸度及び加水酸度〉
 △あらまし
 土壌中の植物の根系は,外界で接している水を媒介して重要な生理作用が行われてい
ます。その生活の場としての土壌が酸性か,中性か,アルカリ性かということは,その
生活に大きな影響を及ぼします。
 △pH
 土壌溶液中の水素イオンの濃度を示すものが水素イオン濃度指数pHです。pHが7.0で
中性,7.0以下が酸性で,価が小さいほど酸性が強くなり,7.0以上がアルカリ性で価の
大きいほどアルカリ性が強くなります。
 △森林土壌のpH
 わが国のような温暖多雨な条件下では,土壌の塩基の流亡が進行しやすく,土壌は酸
性になりやすいです。一般的な森林土壌は,pH6.0前後です。褐色森林土や黒色土では
約pH4.5〜5.5,鉱質土層のポドゾルA2層ではpH4.0,最低値ではポドゾルH層のpH3.5
前後です。
 △置換酸度及び加水酸度
 土壌溶液中の水素イオンの一部は,土壌コロイドに吸着されている塩基イオンと置換
されて,コロイドに吸着保持され,両者の間に平衡状態が保持されます。水素イオンは
酸としての機能は示しませんが,土壌溶液の塩基イオンの濃度が高くなれば,これと置
換されて土壌溶液中に移行し,酸としての機能を示します。このようなコロイドに吸着
されている水素イオンは土壌の潜在的な酸性と考えられていますが,これを置換酸性(
潜在性)と呼んでいます。
 この置換反応をさらに進めるための弱酸塩の定量値が加水酸度です。
 △森林土壌の置換酸度
 上述のように土壌の置換酸度はpHや置換性塩基の飽和度なとど密接な関係を有し,こ
れらの価が低くなるほど置換酸度が増大します。わが国の森林土壌での置換酸度(y1)
は,pH6.0では1.0前後,pH4.0では30〜40です。
[次へ進んで下さい]