07a 森林の土を掌に〈地形と土壌〉
 
 ・崖錐と出現土壌:崖錐は急斜面上の風化砕屑物が自重で崩落し,斜面下部に堆積し
て生じた半円錐形の地形であり,表面傾斜は約30〜35度の間にあるものが多いです。急
斜山地には大小,新旧さまざまな崖錐が発達していますが,典型的なものは断層崖,比
高の高い台地などの崖下に見られ,多数の崖錐が末端部を接して並んでいることがあり
ます。一般にA層がよく発達し,土層が深く理化学性は極めてすぐれています。
 ・麓屑面と出現土壌:麓屑面は斜面上の表層物質が主として匍行ホコウによって徐々に
斜面下部に移動して形成された堆積面で,崖錐に比べると一般に規模が小さく,表面傾
斜は緩いです。また崖錐の多くが斜面の上下方向に長い縦長の平面形を示すのに対し,
麓屑面の多くはむしろ横長で斜面下部を取り巻くように発達しており,表面は平滑です。
物質を供給した上部の斜面は普通凸形急斜面ですが,崩壊を起こすほど急峻でなく,ま
た斜面長は短いです。典型的なものは隆起準平原山地,老年期山地などに見られるドー
ム状地の斜面下部に認められます。一般にA層,全土層ともに厚い理化学性にすぐれて
います。
 ・冲積錐と出現土壌:冲積錐は急斜山地の小沢の出口に形成される扇状の平面形を持
った堆積地形であり,扇状地に比べて規模が小さく,表面傾斜が強いです。堆積物は砂
礫質で,淘汰作用はあまり受けていないです。礫の円磨度は弱く,排水も良いです。未
熟土ですが,伏流水による養水分の供給があるため林木の成長は一般に良好です。
 ・土石流地と出現土壌:土石流地は山津波が造った堆積面で,押し出しとも呼ばれま
す。豪雨,地震などによって山腹の風化砕屑物が崩落あるいは滑落し,それが水ととも
に渓間を高速で流下し(いわゆる鉄砲水),谷底を埋めて形成した緩斜面です。流下方
向に細長く連なり,谷間からあふれ出た場合にはそこに扇状の緩斜面を造ります。土層
は深く,一般にち密です。
                                       
 △火山地の地形と土壌
 火山地とは,火山活動によって地表面に形成された塊カタマリをいいますが,形成時の形
(原地形)に近いものから,侵触あるいは後日の爆発による欠損などによってかなり変
貌したものまでが含まれます。
 火山地は,火山地(本体),火山山麓地(すそ野),火山性丘陵地及び火山性台地に
大別できます。
 ・火山地平坦面と出現土壌:火山本体に見られる平坦面ないし緩斜面で,溶岩の堆積
でできており,原地形面に当たります。火山放出物で覆われていることが多く,ち密な
褐色森林土あるいは黒色土が見られます。
 ・火山性台地平坦面と出現土壌:大型火山の噴出による火山砕屑物が熱雲,軽石流,
スコリヤ流あるいは火山灰流となって山体を駆け下り,周辺部を埋めて広大で平坦な堆
積面を造ります。堆積物質は軟弱であるため流水で刻まれやすく,崖で囲まれた台状の
地形が形成されます。これを火山性台地と呼び,構成物質によっていわゆるシラス台地,
軽石流台地,溶結凝灰岩台地なとど区分されます。構成物質は一般に粗粒であり,堆積
物層は普通多孔性で排水が良く保水性は極めて低いです。
 ・溶岩流地と出現土壌:溶岩流地の多くは火山放出物で被覆されており,それが土壌
母材となっています。すそ野には黒色土の優先することが多く,褐色森林土も見られま
す。
 ・火山泥流地と出現土壌:火山爆発,地震,豪雨などによって山体が破壊され,その
砕屑物が雨水や沢の水とともに山腹を流下し,山麓部を埋めて形成された地形を泥流地
と呼びます。磐梯山北麓,鳥海山麓象潟付近,北海道駒ケ岳山麓大沼付近などに典型的
なものが見られます。形成の古い泥流地では,これら堆積物を母材にした褐色森林土が
見られます。
                                       
 △丘陵地の地形と土壌
 丘陵地と山地とは習慣的に区別されているだけであって,地形学的に明確な区別の基
準はないといわれています。丘陵地は普通平野から山地への移行部に位置しており,土
地利用の面でいわゆる「前山」あるいは「里山」としての性格が強く,畑,果樹園,草
地などとして利用されているケースも少なくありません。全国的には,丘陵地には赤色
系及び黄色系の褐色森林土が多く,赤・黄色土も見られます。
                                       
 △台地,段丘の地形と土壌
 地形学でいう台地とは,厳密にはプラットホーム(卓地,卓状地)のことを指します
が,本稿では下総台地,牧之原台地のように崖によって低地と境された表面の平坦な台
状あるいは階段状の地形を台地と呼ぶこととします。
 台地や段丘はその成因によって,河成,湖成及び海成に,また位置によって河岸,湖
岸及び海岸の各台地(段丘)に区分されます。また構成状態によって,平らな基盤岩表
面が裸出しているかあるいはそれを被覆する砂礫層が薄いものを岩石台地,厚い砂礫層
からなるものを砂礫台地として区分します。
 土壌の種類としては,赤色系,黄色系亜群の褐色森林土が多く見られます。
                                       
 △低地の地形と土壌
 三角州,海岸平野,扇状地,谷底低地などのように,主として河,湖,海などの堆積
作用によって形成された低平な土地を低地と総称します。低地の構成物質は新鮮で,低
地土壌は一般に未熟です。
 ・扇状地と出現土壌:山間地を流下してきた急流河川が平野にでると流速を急に減ず
るため,運びきれなくなった砂礫をそこへ残します。このようにして次第に砂礫の堆積
は谷口を中心にして半円状に広がって発達します。これが扇状地です。扇状砂礫層は透
水性がよく,土壌は普通砂礫質の未熟土です。
 ・谷底低地と出現土壌:山地,丘陵地,台地などの谷間にあって,河川によって形成
された平坦地を谷底低地と呼びます。山間の谷底低地は一般に砂礫質,それより下流の
谷底低地は泥質のものが多いです。谷底低地を水田として利用し,「谷地田ヤチダ」,「
谷津田ヤツダ」などと呼びます。
 ・砂丘と出現土壌:砂丘は,風によって吹き飛ばされた砂が降り積もって生じた堆積
地形で,卓越風側に緩く,風下側に急なかたまりの連なりを呈しています。卓越風向に
対して平向に延びて発達する縦砂丘と,風向に対して直角に延びて発達する横砂丘とに
区分されます。わが国の砂丘の大部分は海岸砂丘で,一部に河畔砂丘があります。
 構成物質は,粒径の比較的揃った砂であり,かなりち密に堆積しています。
 砂丘生成作用が衰え,植物が侵入し始めると砂粒の移動はさらに弱まり,やがて森林
が成立して表層が安定します。このような状態にあるものを固定砂丘と呼びます。高緯
度地方の砂丘はポドゾル化作用が進行しやすいです。北海道浜頓別砂丘では発達したポ
ドゾルがみられますが,これはもとアカエゾマツ林であったといわれています。また北
海道ではミズナラあるいはトドマツの純林で覆われた固定砂丘があります。両林が並ん
でいる場合はトドマツの方が内陸側に位置しています。
 なお,砂丘の固定には,藩政時代からのクロマツを主とする海岸林造成が大きく貢献
しています。
                                                                             
             参考 「森林土壌の調べ方とその性質」林野弘済会発行

[次へ進む] [バック]