08a 高山植物花旅ガイド1
 
〈夕張岳〉
 特産種の多さで知られる夕張岳には,東西から2本の登山道があります。花を訪ねる
のが目的の場合は,蛇紋岩露出地のある西側の夕張コースがよいでしょう。
 石勝線清水沢駅からタクシーを利用し,明石町経由で,ペンケモユウパロ林道の終点
(登山口)まで行きます。此処から15分程歩きますと夕張岳ヒュッテです。ヒュッテの
200m程手前で,冷水ヒヤミズコースに入ります。樹林帯を1時間余で冷水ノ沢,次いで前岳
ノ沢の水場を過ぎて尾根に出ます。急登30分程で眺望に恵まれた望岳台,更に30分で前
岳湿原です。お花畑の始まりです。前岳湿原には一般的な湿原植物に加え,ミヤマアケ
ボノソウ,クモマニガナなどが咲いています。
 ダケカンバの疎林を抜けて,ホソバウキミクリが水面を覆うガマ岩横のヒョウタン池
を過ぎますと,いよいよ右手が蛇紋岩の露出地です。岩というより灰色粘土の崩壊地と
いう感じです。ユウパリコザクラ,シソバキスミレ,エゾコウボウなど,夕張岳に特産
する植物たちとの初見参です。この辺りから次の湿原のお花畑までは高原散歩の気分で
歩けます。タカネクロスゲ,シロウマアサツキ,チシマワレモコウなどが多く,ナガシ
キタアザミやトウゲブキ,カラフトイチヤクソウなども見られます。道が右にカーブす
る辺りの湿原には,シロウマアサツキ,イブキトラノオが群落を作り,ミヤマアケボノ
ソウ,リシリリンドウ,ユウバリソウなども見つかります。此処からやや傾斜がきつく
なり,タカネグンバイやエゾホソバトリカブトが目につきます。登り切った少し先が吹
き通しと呼ばれています蛇紋岩の砂礫地です。名前の通り風の強いところで,ユウバリ
ソウやユキバヒゴタイの群落のほか,タカネヒメスゲ,ナンブイヌナズナなどが見られ
ます。頂上へは金山からのコースと合流してジグザグの急な登りを15分程です。頂上に
は特産種はありませんが,ミヤマオグルマやミヤマアズマギクなどが美しいです。
 
〈幌尻岳・戸蔦別岳〉
 日高山脈の最高峰幌尻ホロシリ岳へは,二つの登山道があります。新冠ニイカップコースは林
道歩きが長いので,此処では額平ヌカビラコースを紹介しますが,何れも日帰りは無理で
す。平取町振内フレナイから額平川林道をゲートまでタクシーで30〜40分です。ゲートから
林道終点の取水ダムまで6q歩いて,取水ダムからは額平川沿いの踏跡を辿ります。幌
尻山荘まで15回程の渡渉がありますので,濡れてもよい靴か地下足袋で歩きましょう。
この間ではエゾスグリ,エゾノジャニンジン,ヒダカイワザクラ,エゾトウウチソウが
見られます。
 本格的な登りは幌尻山荘からの暗い樹林がジグザグ道で始まります。此処では珍しい
ヒロハガマズミを見ることができます。命ノ水を通過してハイマツの尾根を登り切りま
すと,北カールを挟んで山頂が望めます。ここから頂上までは,花と展望のゴールデン
・コースです。特産種はありませんが,主な花はエゾコザクラ,ヒダカミネヤナギ,エ
ゾサイコ,ムシトリスミレ,フタマタタンポポなどです。
 頂上から往路を戻ってもいいですが,超塩基性岩地特有の植物が見られるかんらん岩
の戸蔦別岳を廻って幌尻山荘に下りますと面白いです。ロックガーデン状の頂稜を北東
に進み,肩から一気に七ツ沼カールまで下ります。時間と気力がありましたらカールに
下りるともっと面白いです。戸蔦別岳にはエゾタカネセンブリ,ユキバヒゴタイ,ナン
ブイヌナズナ,カトウハコベなどの超塩基性岩植物や,ホソバツメクサ,ミヤマシオガ
マ,ミヤマアズマギクなどが多いです。幌尻山荘への下山路は,北戸蔦別岳との中間ピ
ークから六ノ沢出合に向かって一気に下っています。
 
〈アポイ岳〉
 アポイ岳は超塩基性のかんらん岩でできた山で,標高が800m程なのに,アポイツメク
サやアポイアズマギクといった特産の高山植物が多く,国の特別天然記念物に指定され
ています。登山口から5合目までは緩い起伏の樹林帯で,その上からがかんらん岩の露
出地です。5合目から7合目までは急な登りで,あとは稜線歩きです。頂上付近で再び
急になります。頂上付近は樹林となり,展望は効きません。
 主な花を花期別にみますと次のようになります。
 △5〜6月:ヒダカソウ,ヒダカイワザクラ,エゾキスミレ,アポイクワガタ,アポ
イアズマギク,エゾタカネニガナ,アポイタチツボスミレ,アポイカンバ,ミヤマハン
モドキ,アポイカラマツ
 △7〜8月:アポイツメクサ,アポイマンテマ,エゾコウゾリナ,アポイヤマブキシ
ョウマ,エゾルリムラサキ,ヒメエゾネギ,サマニオトギリ,エゾサイコ
 △8〜9月:ヒダカトリカブト,ヒダカトウヒレン
 
〈秋田駒ガ岳〉
 秋田駒ガ岳と乳頭ニュウトウ山は奥羽脊梁山脈の一部をなし,秋田と岩手の県境に連なる山
々です。秋田駒ガ岳は火山活動の歴史が新しく,大焼オオヤケ砂,女メ岳などに火山礫が広が
り,山腹にはオオシラビソ林を欠いています。北東の乳頭山や笊森ザルモリ山などは古い火
山なのでオオシラビソ林が発達し,湿原もあります。このようにこの山域は変化に富み,
礫地の花や湿原の花が同時に楽しめます。
 入出口としては田沢湖高原口が便利です。標高1300mの8合目までバスが運び上げてく
れます。此処から女目オナメ岳の山腹を登って阿弥陀池に至り,最高峰の女目岳,男オ岳,
小岳周辺,大焼砂,横岳などを巡るコースは,秋田駒ガ岳の花旅の核心部を訪ねる一日
コースです。
 このコースの至るところにお花畑が見られますが,その中でも大焼砂の火山礫原を彩
る6月下旬〜7月上旬のタカネスミレと,7月中旬〜下旬のコマクサの大群落は日本屈
指です。また大焼砂では,6月中旬〜下旬にミヤマキンバイ,8月上旬〜中旬にはイワ
ブクロ,オヤマソバ,ヤマハハコ,ミヤマトウキなど,乾燥したところに咲く花も見ら
れます。このほか,小岳では7月中旬〜8月中旬にチングルマがお花畑を作り,女目岳
と男岳では6月中旬〜7月中旬にミヤマダイコンソウ,6月下旬〜7月上旬にミヤマウ
スユキソウ,7月下旬〜8月中旬にエゾツツジなどが咲き,何れも一見の価値がありま
す。
 秋田駒ガ岳の後は千沼ガ原,乳頭山,田代岳へ足を延ばしてみましょう。秋田駒ガ岳
から湯森ユノモリ山,笊森山と縦走してもいいですが,乳頭温泉からのワンデイ・ハイクも
可能です。田代岳の湿原にはミツガシワやキンコウカ,乳頭山の山頂の岸壁にはヒメイ
ワカガミ,ホソバイワベンケイなどが多いです。千沼ガ原はオオシラビソに囲まれた別
天地で,沢山の池塘が点在する高層湿原です。ヒメシャクナゲ,ツルコケモモ,モウセ
ンゴケなど湿原植物の宝庫です。
 
〈早池峰山〉
 北上山地の最高峰早池峰山は,標高1914mの長い間の浸食に耐え残った山で,北面は可
成り広く森林に覆われていますが,南面の一部から頂稜にかけては,かんらん岩や蛇紋
岩の超塩基性岩がゴロゴロした岩礫の急斜面になっています。高木は生育できず,1300m
付近からハイマツが出てきて,高山帯の様相を帯びます。また超塩基性岩は酸化マグネ
シウムや重金属を含むため,それに耐えられる特殊な植物が生育しています。このため,
早池峰山の高山帯は国の特別天然記念物に指定され,ハヤチネウスユキソウ,ナンブト
ラノオ,ミヤマヤマブキショウマ,ナンブトウウチソウなどが特産するほか,ナンブイ
ヌナズナ,カトウハコベ,ヒメコザクラなどの超塩基性岩の植物,サマニヨモギやチシ
マツガザクラなどの南限の植物といった珍しい種類が多いです。
 早池峰山の登山コースの中では,河原坊コースと小田越コースが花の核心部を巡るコ
ースです。河原坊までは登山バスも運行していますので,両コースの花を一日で楽しめ
ます。しかし,花期が異なっていますので,一度だけの登山で全部を見ることはできま
せん。
 6月中旬〜下旬にはヒメコザクラ,ナンブイヌナズナ,チシマアマナなど,7月はハ
ヤチネウスユキソウ,ミヤマアズマギク,ミヤマヤマブキショウマ,ナンブトラノオな
ど,7月下旬〜8月上旬はサマニヨモギ,ナンブトウウチソウ,ミヤマアケボノソウな
どが咲きます。
[次へ進んで下さい]