[詳細探訪]
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈ホタル〉
 ホタル蛍は、甲虫目ホタル科に属する昆虫の総称である。一般には、そのうち夜間に
発光するもの、例えばゲンジボタル、ヘイケボタルなどを指すことが多い。ホタル類は
世界各地に広く分布しているが、特に熱帯域に種類が多く、2000近い種類が知られてお
り、日本産は二十数種類、そのうち光を出すものは10種類程である。ホタルは小形から
中形の甲虫で、5〜20o前後が普通である。体は一般に軟弱で、多少とも長めの楕円形で
多くは両側がほぼ平行しており、背面の平たいものと、やや膨フクらんだものとがある。
ホタルは普通黒色で前胸の淡紅色をした姿を想像するが、他には全体が黄色のもの、羽
根の先だけ黒いもの、黒くて外縁が黄色いものなどあり、黒から褐色と黄から赤色の組
み合わせの色彩が一般的である。発光器のある腹端部の節は普通淡黄色で、体表には短
毛がある。
 
 体の平たい種類では一般に頭が前胸の下に隠され、しばしば前胸の前部に1対の窓状
の透明部があり(マドホタル属)、またしばしば雌の両翅が退化縮小し、ときには全く
消失して幼虫状であることもある(アキマドボタル・カラフトボタルなど)。ツチボタル
と呼ばれるものは、このような飛べない雌ボタルと、おそらく発光する幼虫を含めて指
すものである。触角は一般に根元が左右接近し、糸状か弱い鋸状のことが多いが、櫛クシ
状や双櫛状のこともある。中足の基節は左右が近接し、発光器があるものは腹部の後方
2節辺りにある。
 成虫は普通食物を殆ど摂らず、雌は草や苔又は湿った土上などに産卵する。
 
〈生態〉
 ホタルの卵は一般に球形に近く、白色である。カラフトボタルなど種類によっては、
雌の体内にあるときから光っているのが体外からも認められる。幼虫は多くは陸生で肉
食、湿った林間の落ち葉の間、石の下などに隠れており、夜間に出て活動する。主にカ
タツムリを襲い、鎌形に曲がった鋭い大顎オオアゴでかみつき、大顎の細い溝を通じ黒い消
化液を注入して体外消化し、液状にして吸い込むことが知られ、このときカタツムリは
麻酔されているとの観察報告がある。
 成虫が発光する種類では一般に幼虫も光り、普通第8腹節に1対の発光器を持つが、
成虫が光らないクロマドボタルなどでも幼虫が光るものがある。クサボタルなどと呼ば
れているのは多分クロマドボタルやオオマドボタルの幼虫であろう。
 
 ゲンジボタルとヘイケボタル及び海外の一部の種類の幼虫は水生で、腹部各節の両側
に二叉になった気管鰓エラを持っており、主にカワニナなど淡水産の巻き貝を捕食する。
古くミズボタルと呼ばれたのは、これら水生の幼虫で、老熟すると上陸して川岸などの
土中に小室を作って蛹サナギになる。陸生の場合には切り株や草の根際などの土中や隠れ
た場所で蛹化ヨウカする。
 
 ホタルの生活史はゲンジボタル、ヘイケボタルの2種類では知られているが、幼虫が
陸生のものではあまり分かっていない。ゲンジボタルでは卵から成虫までおよそ1年で、
例を挙げると、成虫(6月中旬)→産卵(6月下旬)→孵化フカ(7月上旬)→老熟幼虫(翌
年5月上旬)→蛹(5月中旬)→成虫となり、成虫期は10〜15日位である。
 
〈発光〉
 ホタルの発光は他の生物発光と同じく、ルシフェリンがルシフェラーゼの存在の下で
酸素と反応して起こるが、アデノシン三リン酸(ATP)とマグネシウムイオンも必要であ
る点が特殊である。光の色はアメリカのホタルでの実験に拠ると、主としてルシフェラ
ーゼの種類によって決まるようで、普通は黄色から黄緑色が多く、ときには橙色のこと
もあり、波長は500〜700mμ前後である。また発光の際熱が殆ど出ないことでは、極めて
効率の良い光である。なお、発光に関与するこれらの物質は水溶性で、死んで乾いたホ
タルでは光らないが、水に浸すと再び発光する。成虫の発光器官は種類により構造に違
いがあるが、外側(腹面)の透明なキチン層の下に大きな発光細胞の層があり、神経末
端と器官の細枝が入り込み、その奥に反射細胞層があって尿酸塩の顆粒カリュウを含み、白
く不透明である。
 器官の細胞は幼虫期の脂肪体から変化して出来ると考えられ、幼虫の発光器を取り除
いても、成虫には発光器が出来ると云う。光の点滅は神経を通じて脳で調節されていて、
気管終末の開閉で空気の供給が加減されるようで、ゲンジボタルなどは1分間に70〜80
回も点滅するが、より単純な発光器官を持つアキマドボタルなどは夜間は持続的に光る。
 発光するのは交尾のための雌雄の合図と考えられ、雄は明らかに雌の光に誘われる。
南方では、ホタルの雄群集が互いに他の個体の発光に誘われて、同時に点滅をすること
も知られている。
 
〈日本産のホタル〉
 わが国に産するホタルで代表的なものはゲンジボタルとヘイケボタルの2種類であっ
て、それぞれ体長は15oと8o前後あり、前胸背中央にある縦の黒条はヘイケボタルでは
太いが、ゲンジボタルでは細くて中央で横に広がっている。
 ゲンジボタルは本州から九州、それに対馬に分布し、幼虫は比較的綺麗な流れに棲み、
成虫は5〜7月頃各産地毎に一斉に現れる。ヘイケボタルは日本各地及び東シベリアなど
にいて、幼虫は緩い流れや水田、池沼などに棲み、成虫は6月頃から散発的に発生し、と
きには秋にも現れてアキボタルと呼ばれることもある。
 何れも河川改修、農薬、水の汚染、餌になる貝の絶滅などで減少しているが、近年は
農薬の禁止、保護対策の実行や人工による繁殖で多少増えている処もある。
 
 幼虫が陸生の種類には前記2種に似た色合いと体型のものに、山林に産するヒメボタ
ルがあり、雌は体が太く、後翅が無い。
 体の平たい種類にはクロマドホタル、オオマドボタル、発光しないオバボタル、オオ
オバボタルなどがあるが、対馬には大形で体が黄色く上翅だけ黒いアキマドボタルが秋
現れ、雌は幼虫形である。
 
〈民俗〉
 ホタルを、怨みを残して死んだ人の霊魂とする伝説は多い。ホタルは、京都府宇治付
近では源三位ゲンサンミ頼政ヨリマサの霊魂であると云う。4月20日をホタル合戦とし、その後ホ
タルを捕ることを禁ずる習俗もある。
 中国でもホタルは人の魂てあると云う。死後ホタルになった姉が、今も光を点けて弟
を捜していると云う昔話もある。
 わが国や中国には、「ホタル来い」と呼びかける童唄ワラベウタが歌われているが、これ
は魂を招く儀礼歌の形式と共通するものである。
 
〈因みに〉
 カワニナ川蜷は、軟体動物門腹足綱のカワニナ科の淡水巻き貝である。北海道南部か
ら台湾までの河川湖沼に産し、殻高30o、殻径12o、大形の個体は殻高60oにも及ぶ。
螺層ラソウの殻頂部は侵されて失われ、最後の3層位になっていることもある。これはわが
国の淡水には、石灰分が少ないことによる。殻表は黄緑色で黒褐色の帯もあるが、汚れ
て黒色になる。胎生で母体内に数百の褐色の胎児貝を持つ。肺吸虫の第一中間宿主(第
二中間宿主はサワガニやザリガニなど)。横川吸虫の第一中間宿主(第二中間宿主は淡
水魚)となる。近似種にチリメンカワニナ、ヒタチチリメンカワニナなどがある。
 
 肺吸虫ハイキュウチュウ(肺臓ジストマとも)は、キュウチュウ目(二生類)の吸虫の一群で
ある。ヒト及び犬・猫・豚などの動物の肺に寄生し、雌雄同体。長さ10o、幅4〜6o。紅
褐色で卵円形。東アジアに広く分布し、カワニナ・ザリガニ・サワガニなどを中間宿主と
する。
 
 ジストマ(Distomaラテン語)とは、「口が二つあるもの」の意で、 吸虫類。体の前
端と腹面とに各々1個の吸盤があり、これを口と間違えての命名とされる。
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