[なぜヒナを拾っちゃいけないの?] 〈まずは、鳥と自然界についての正しい知識を得る必要があります〉 野生とは、厳しい世界です。生き延びて当たり前という人間の世界とはまったく違い、 明日生きている保証は何もないのです。野生の小鳥の平均寿命についてはデータが少な いのですが、およそ1年半前後と考えられています。一冬を生き延びたものは経験を積 み学習をし、数年あるいは10年以上も生存する可能性もありますが、その割合はおそら くヒナの段階からすると1割あるかないかという程度でしょう。 〈自然界の厳しさについて〉 自然界での命の原則は、他の生物の食物となることであり、生き延びるものはほんの わずかです。食べられる側は食べる側よりも数が多く、同時に子沢山と云う原則があり、 さまざまな生物種が共存しています。虫や魚の卵の数を想像してみて下さい。小鳥も猛 禽類や獣に食べられたり、ヒナや弱ったものがカラスのような雑食性の鳥に食べられた りする一方で、卵をたくさん生んだり、春から夏の短期間に子育てを繰り返したりして 対応しています。もし卵すべてが親になったとしたら、増えすぎによって食物やすみか が不足する事態となるでしょう。その種の食物となる生物を食べ尽くしてしまえば、そ の種もまた存続できなくなってしまうかもしれません。そうならないのは、厳しい野生 の世界では生き延びた一部が子孫を残していくという、生態系のバランスが保たれてい るからと考えられます。そうは言っても、目の前のヒナや傷ついた野生生物を助けたい という優しい気持ちに対して、ほうっておけと言っているわけではありません。助けた いとすれば、助けるべき対象かどうかという判断と、どのようにしたら助けられるかと いう知識が必要になります。 〈ヒナを育てるのが難しいワケ〉 身近で繁殖する鳥の代表格であるツバメでさえ、野生に戻れるように育て上げるには 大変な苦労があるそうです。ヒナを育てるのがどうして大変か、というと多量の動物質 の食物が必要であったり、栄養が偏ってしまうと障害が現れたり、ヒナがうまく野生の 生活に適応できるような学習をさせられなかったり、といったことがあります。たとえ ば、スズメは一回の繁殖で4,200回もヒナに餌を運んだという例が報告されていますし、 人がいつまでも餌を与えていればヒナは独立しようとしないことも知られています。ま た、人になれてしまったがために、周囲を警戒しなくなって捕食者に食べられてしまっ たり、放しても帰ってきてしまうというように野外生活に戻れなくなってしまた鳥の例 もあります。 〈法律や行政の対応〉 善意による保護もふくめ、野鳥の捕獲・飼育は「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」いわ ゆる「鳥獣保護法」によって禁じられています。従って、保護飼育する場合にも許可が 必要になります。まずは、各都道府県の鳥獣行政担当部署(自然保護課などにあること が多い)に相談し、指示を仰いでください。 ただし、野鳥の保護・飼育に詳しい技術者、獣医師もまだあまり多くありませんし、 この時期の救護施設は保護または誘拐されてしまったヒナたちであふれんばかりである ことも少なくありません。行政としては、相談を受けた場合に「巣に戻す」「そのまま にする」ことを基本としているところが多いでしょう。不親切だ、という声を耳にする こともありますが、きちんと育て、厳しい野外での生き抜き方を教え、放鳥することが 出来る種は少ないこと、放鳥してもその後どうなるのかよく分かっていないこと、ヒナ を育てるためには非常に大きな労力を必要とするため、現時点で保護が必要ないわゆる 希少種や生態系に対して労力がかけられなくなってしまうなどの危惧があること、税金 で運営されている施設では、住民から様々な考え方に基づいた様々な意見が寄せられて いること、などの事情があるということも考慮に入れておかなければなりません。 以上「ヒナを拾わないでキャンペーン」より [鹿角を飛び交う野鳥たち] [緑の森と野鳥たち]