51_5 鳥を詠める和歌
[鷹タカ(ツミ・コノリ)]
とやかへるつみを手にすへあはづ野の 鶉からむとこの日くらしつ
(新撰六帖 二 家良)
ひばりとるこのりてにすゑこまなめて あきのかりたにいでぬひぞなき
(夫木和歌抄 十四小鷹狩 源仲正)
われが身はとかへるたかとなりにけり としをふれ共こひをわすれず(袖中抄 九)
とやみればわかなつかひの[かたがへり] 秋きにけりとをはぞしなへる
(曽禰好忠集)
鷹のとるこぶしの内のぬくめ鳥 氷る爪根の情をぞしる(後京極殿鷹三百首)
[隼ハヤブサ]
ひばりは あめにかける たかゆくや はやぶさわけ さゞきとらさね
(古事記 下仁徳)
はやぶさは あめにのぼり とびかけり いつきがうへの さゞきとらさね
(日本書紀 十一仁徳)
[鷲ワシ]
わしの骨灰となしつゝ酒でのめ 足手身ほねのくだけたによし(食物和歌本草 二)
筑波禰ツクバネに かかなくわしの ねのみをか なきわたりなむ あふとはなしに
(萬葉集 十四東歌)
渋渓シブタニの 二上山フタガミヤマに 鷲ぞこむとふ 指羽サシハにも 君が御為に 鷲ぞこむと
ふ(萬葉集 十六有由縁并雑歌)
[夜鷹ヨタカ]
夜たかすむはやしのはしにすむ鳥の とけてもえねぬ恋もする哉
(木工権頭為忠朝臣家百首 加賀守顕広)
[鶚ミサゴ]
みさごたゞ身には能なし骨を取 黒焼にして骨接となる(食物和歌本草 六)
美沙ミサゴ居る 石転イソワに生ふる 名乗藻ナノリソの 名は告ノらしてよ 親は知りぬとも
(萬葉集 三雑歌)
夕まぐれたかとみつればあら磯の 波間をわくるみさご成ける(散木葉謌集 五羇旅)
[木兎ミミヅク]
みゝづくの骨は眩暈の薬也 くろやきにして酒でのむ也(食物和歌本草 六)
足引の山深くすむみゝづくは 世のうき事をきかじとや思ふ(土御門院御集)
[梟フクロフ]
ふくろふは鼠瘻ソロウやむ人炙アブリくへ 風癇噎病なをしこそすれ(食物和歌本草 五)
山ふかみけぢかき鳥の音はせで 物おそろしきふくろふのこゑ
(夫木和歌抄 二十七梟 西行上人)
[喚子鳥ヨブコドリ]
倭には 鳴きてかくらむ 呼児鳥 象キサの中山 呼びぞ越ゆなる(萬葉集 一雑歌)
尋常ヨノツネに 聞くは苦しき 喚子鳥 音コエなつかしき 時には成りぬ
(萬葉集 八春雑歌)
滝タギの上ヘの 三船の山ゆ 秋津辺アキツベに 来鳴きわたるは 誰タレ喚児鳥
(萬葉集 九雑歌)
吾が瀬子セコを 莫越ナコセの山の 喚子鳥 君喚びかへせ 夜のふけぬとに
春日なる はがひの山ゆ さほの内へ 鳴き往くなるは たれ喚子鳥
答へぬに な喚びとよめそ 喚子鳥 佐保の山辺を 上下ノボリクダリに
朝霧に しぬゝにぬれて 喚子鳥 三船の山ゆ 喧き渡る見ゆ(萬葉集 十春雑歌)
遠近のたづきもしらぬ山中に おぼつかくもよぶこどりかな
(古今和歌集 一春 よみひとしらず)
我宿の花にななきそよぶこどり よぶかひありて君もこなくに
(後撰和歌集 二春 春道つらき)
[容鳥カホドリ](河辺鳥)
春日ハルビを 春日山の(中略)容鳥の 間無く数シバ鳴く 雲居なす 心いざよひ(下
略)(萬葉集 三雑歌)
容鳥の 間無く数鳴く 春の野の 草根クサネの繁き 恋ひもするかも
(萬葉集 十春相聞)
夕さればのべになくてふかほ鳥の かほにみえつゝ忘られなくに
(古今和歌六帖 六鳥)
かほどりのこゑもきゝしにかよふやと しげみをわけてけふぞたづぬる
(源氏物語 四十九寄生)
山河のゐくひにかよふかほよ鳥 かつみるたびに音をのみぞなく
(万代和歌集 十六雑 従二位家隆)
ありとてもまだみもしらぬかほ鳥の いとゞ霞に空かくれつゝ
(現存和歌六帖 信実朝臣)
[箱鳥ハコトリ]
み山木にねぐらさだむるはこどりも いかでかはなの色にあくべき
(源氏物語 三十四若菜)
みやま木によるはきてなくはこ鳥の あけば帰らんことをこそおもへ
春たてば野べにまづなくはこどりの めにも見えずて声の悲しき
(古今和歌六帖 六鳥)
春されば友まどはせるはこ鳥の ふたがみ山に朝な朝ななく(新撰六帖 六 家良)
ふたむらの山の端しらむしのゝめに あけぬとつぐるはこどりのこゑ
(夫木和歌抄 二十七箱鳥 小侍従)
[雷鳥ライノトリ]
しら山の松の木蔭にかくろへて やすらにすめるらいのとりかな
(夫木和歌抄 二十山 後鳥羽院御製)
[鵺ヌエ(鬼ツグミ・ヨミヂ鳥)]
をとめの なすやいたどを おそぶらひ わがたゝせれば ひこづらひ わがたゝせれ
ば あをやまに ぬえはなき(下略)(古事記 上)
よみぢ鳥我かきもとに鳴つなり 人まで聞つゆくたまもあらじ(拾芥抄 上本諸頌)
[バック]