05 ラムサール条約
 
                          ラムサール条約とは
                                       
 ラムサール条約とは,要約すれば「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関
する条約」である。
                                       
 目的と経緯
 ラムサール条約は,マングローブ湿地,干潟,湖沼,沼沢地,泥炭地,湿地林,人工
池など,およそ水に関係する大部分の立地を保全の対象にしている。
 これらの湿地は,地球規模で渡りをする水鳥にとって重要な生息地であるばかりでな
く水域と陸域の自然環境が混在することから,両者の生態系に依存する多様な生物相を
構成している。人々はこれらの豊かな生物資源を活用し,あるいは湿地自体を水源地,
水路などとして利用してきた。近年は,湿地が気温や湿度など地域の微気候をコントロ
ールし,酸素の供給など大気の浄化作用においても重要な役割を果たしていることが明
らかにされつつある。
 水鳥は国境を越えて,多くの湿地を生息地として利用している。また,湿地を維持す
る水系や湿地自体が複数の国にまたがって展開している例も多いことから,湿地や水鳥
の保全には国際協力が不可欠であるとして,1971年2月2日.「湿地及び水鳥の保全の
ための国際会議」がイランのラムサールにおいて開催され,本条約が採択された。そし
て,7ケ国が締約国となった4ケ月後の1975年12月21日に本条約が発効した。条約は将
来にわたって湿地を持続的に活用できる賢明な利用手法を確立し,適切な湿地の保護・
管理施策の実施を目的としている。ラムサールはイランの首都テヘランの北,約150km
離れたカスピ海湖畔に位置する小さな町で,条約は,開催地に因んで通称「ラムサール
条約」と呼ばれる。
 条約の業務は1987年までは国際自然保護連合(IUCN,本部はスイスのグラン)が
担当していたが,1988年からは国際水禽湿地調査局(IWRB,本部はイギリスのスリ
ムブリッジ)の協力を得て,ラムサール条約事務局が,国際自然保護連合(IUCN)
の中に設けられた。
                                      
 登録湿地の指定
 締約国は,その国に分布する湿地のうち,生態学上,植物学上,動物学上,湖沼学上
,
または水文学上,国際的に重要な湿地を少なくとも1ケ所以上指定し,条約事務局が管
理する登録簿に登録することが義務づけられている。
 各国は各々の国内制度によって登録した湿地の保全及び利用のための措置をとること
とし,生態学上の特徴が変化し,またはそのおそれのある場合は事務局に報告すること
が義務づけられている。
 1992年6月現在,締約国70ケ国が登録する湿地は,565ケ所,総面積約3620万haで,
わが国の国土の9割強にあたる。
 わが国は,1980年6月17日,本条約への加入書をユネスコ事務局に寄託し,同年10月
17日,締約国として発効し,これまでに4ケ所の湿地を登録している。
 これまでに指定されたわが国の登録湿地は,いずれも「鳥獣保護法(鳥獣保護及狩猟
ニ関スル法律)」に基づく「国際鳥獣保護区特別保護地区」に指定され,その保全が図
られている。
  釧路湿原(北海道)   7726ha 1980年6月17日登録
  伊豆沼・内沼(宮城県)  559ha 1985年9月13日登録
  クッチャロ湖(北海道) 1607ha 1989年7月6日登録
  ウトナイ湖(北海道)   510ha 1991年12月12日登録
                                      
 賢明な利用
 これまで湿地は常に人々の生活と密接して存在し,動・植物などの生物資源や水源地
・水路などの自然環境が利用されてきた。
 条約における湿地保全の原則は「賢明な利用(ワイズ・ユース)」の理念に基づいて
いる。湿地を単に保護地域に定めて人々の立ち入りを禁止するなどによる保護施策を実
施するだけでなく,湿地の生態系を維持しつつ,湿地の有形・無形の資源を持続的に利
用・活用するための適切な保護・管理手法の確立と実施を求めている。
 また,開発途上国において湿地の保護・管理を充分に行うには,財政・技術上の援助
が必要であることから,条約事務局に「世界湿地保全基金」が設立され,各国,各NG
Oからの基金を得て,開発途上国における湿地保全・管理プロジェクトの実施に活用さ
れている。
                                       
 締約国会議
 本条約は3年ごとに締約国会議を開催する。
 締約国会議には,締約国のほか,まだ加入していない国,及び国際機関などの代表が
出席し,条約の改正,条約事務局の事業や予算の承認などが審議される。
 また,締約国にナショナル・レポートを提出して自国の登録湿地の現状や保全活動に
ついて報告し,湿地の保護・管理手法などについて討議され,実施すべき施策などにつ
いての勧告がなされる。
 一方,毎年,アジア,アフリカ,ヨーロッパ,北アメリカ,南アメリカ,オセアニア
の各地域の代表,及び次期締約国会議開催国などによって構成される常設委員会が開催
される。委員会では,条約事務局の活動報告,各地域の湿地保全の現状と課題,締約国
会議に向けての取り組みなどが討議される。
 これまでに,以下において締約国会議が開催された。
 第1回 1980年 イタリア・カリアリ
 第2回 1984年 オランダ・フローニンヘン
 第3回 1987年 カナダ・リジャイナ
 第4回 1990年 スイス・モントルー
 第5回 1993年 日本・釧路(6月9〜16日開催予定)
 東アジアには,わが国を経て東シベリアと東南アジアの間を移動する水鳥の重要な生
息地が分布するが,現在,東アジアにおける締約国は,日本,ベトナム,中国,インド
ネシアの4ケ国にとどまっており,水鳥の重要な生息地が分布する韓国,フィリピン,
マレーシアなどはいまだ未加入である。
 1991年,わが国は,東アジア地域8ケ国の代表を招いて,「湿地の生物的多様性に関
するシンポジウム」を開催した。
 これまでアジア地域においては,締約国,非締約国,NGOによる「条約アジア地域
会議」がパキスタンのカラチ,イスラマバードで開催され,本年9月には,オランダに
おいてラムサール条約事務局主催による「湿地のワイズ・ユース,ワークショップ」が
開かれた。また,同月,アメリカ,オハイオにおいても「国際生態学会国際湿地会議」
が開催された。10月にはわが国において,アジア地域各国の代表,NGO約50名を招待
して「アジア湿地シンポジウム」を開催し,アジア地域における湿地の保全とワイズ・
ユースについて討議を重ねた。
 1993年,わが国で開かれる第5回締約国会議は,アジア地域ではじめての開催になる
ことから,これを機会に東アジア地域の加盟国の拡大が求められている。現在,東アジ
アにおける対象湿地及び水鳥についてのデータを集積する目的で,フィリプン,マレー
シア,インドネシアにおいて,鳥類保護協力事業・渡り鳥等共同研究推進事業・湿地及
び水鳥の保全に関するプロジェクト(ODA)を実施し,保全すべき湿地,湿地・鳥類
保全施策の検討を行っている。
 また国内においても,登録湿地の増加など,湿地の保全施策の強化に向けた取り組み
を進めている。
           (財)日本環境協会発行月刊誌「かんきょう」10月号抜粋
 
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