学名解説(種小名)[凡例]
 
[園芸品種の学名と表記]
 
 以上の分類単位は野生植物のものと共通だが,園芸品種 cultivar = cv. は園芸品種
だけに使われる。園芸品種名は種の学名の後ろに cv. として表されるか, ' ' で囲む。
園芸品種名はラテン語表記でなく,何処の言葉を使ってもよく,大文字で始める。例え
ば,サザンカの園芸品種明石潟アカシガタは Camellia sasanqua Thunb.cv.Akashigata,又
は Camellia sasanqua Thunb.'Akashigata' と表される。
 また,正式な種名が与えられていないものなどの園芸品種に関しては,例えば,バラ・
スーパー・スター Rosa 'Super star',チューリップ・クイーン・オブ・ナイト Tulipa cv.
Queen of Night と属名に続けて園芸品種名を表記する場合もある。
 
 野生種の分類単位である品種 f. と園芸品種 cv. は現在のところやや混乱が観られ
る。品種は,野生状態で見られる極僅かな形質の変化で,園芸的な優劣には関係がない。
同じ変化形を持つ個体が,纏まって見付かると考えてよい。
 園芸品種 cv. は観賞や生産上,はっきりした特徴のある形質を人間が人為的に選び出
し,園芸品種名を付けたものである。それは品種改良によって選び出された形質や,野
生種の変異を固定したものに付けられる。園芸品種が持っていなければならない特徴,
条件は,
@その形質がはっきりした特徴を持っていて,同種の他の品種や他の園芸種とはっきり
区別出来るもの。
A殖やし方は問わないが,同じ形質を持った株を殖やして育てられること。実生ミショウの
場合でも,その園芸品種の形質を備えていることなどである。
 
 園芸植物で仮の学名はあるが,未だ正式の学名と認められない場合は,学名の最後の
命名者名を記すところに hort. と表記されている。これは”庭の,園芸上の”と云う
意味のラテン語の省略形である。園芸的には面白いので導入される植物,特に熱帯産の
ものには,未だ正式には分類されていないものが多く,この形式の表記のものが見られ
る。今後研究が進み,しっかり分類されるに従って hort. の付いた植物も正式な学名に
変えられて行く筈である。
 
[種間雑種と属間雑種]
 
 園芸植物の学名には,更に野生植物にない問題がある。人工交配などによる雑種の問
題である。普通,種と種の間の雑種を表示する場合,植物分類では種小名の前に × を
付ける。これが種間雑種である。例えば,プリムラ・キューエンシスはプリムラ・フロリ
バンダ Primula floribunda Wallich とプリムラ・バーティシラータ P.verticillata 
Forssk.の雑種で,学名表記は Primula × kewensis W.Wats. となる。
 
 属間雑種の場合は雑種記号 × を属名の前に付ける。例えば,ファッツヘデラはヤツ
デの園芸品種のモセリ Fatsia Japonica Decne. et Planch.cv.Moseri とアイリッシュ・
アイビー Hedera helix L.var.hibernica H.Jaeg.の属間雑種で,学名は × Fatshedara
lizei Guillaum と表す。属間雑種はラン科のものに多く見られる。
 園芸品種の中にはバラやチューリップのように,複雑な交配の結果生まれた雑種で占
められているものが多く,正式に雑種名が付けられていないものもあり,Rosa hybrid(
バラ),Tulipa hybrid(チューリップ)と表している場合もある。hybrid は雑種と云
う意味の英語である。
 
[標準和名と園芸名]
 
 野生植物の名前は標準和名として整理され,統一されている。この標準和名以外に,
ある地方だけに独特な地方名や,別名が流布している場合もあるが,やがて標準和名に
統一されて行くだろう。その標準和名の表記は片仮名を使う。
 園芸品種の和名には,統一された標準和名に当たるものはなく,一番普及している通
り名が使われる。そのために造園家,鉢物業者,園芸業者など,それぞれ専門によって
同じ園芸品種を別の名で呼ぶこともある。更に商品であるために,営業政策上新しい和
名が付けられたりする。例えば,ショウガ科のグロッバ・ウィニティー Globba winitii 
C.H.Wright はグロッバ「アユタヤの黄金」という名で市販されている。わが国の暖地に
自生するオオイタビ Ficus pumila L. はプミラと云う商品名で販売され,最近はオオイ
タビよりプミラの方が一般的になった。このように従来からあった植物を,和名から外
国での呼び名や学名に由来する新しい名で,改めて売り出して成功する例は多い。
 
 サボテン類や多肉植物では,各種に園芸品種名のように見える漢字名が付けられてい
る場合が多い。例えば,ガステリア・アームストロンギィ Gasteria armstrongii Scho-
nl. が臥牛ガギュウ,メセン類のアロイノプシス・ニリッテイ Aloinopsis nilletii L.
Bol. が天女の舞と云う風に古典的な銘に近いものが多い。学名を覚えることの重要さは
これらの例でも理解出来たであろう。和名を知っていれば一応用は足りるが,学名を知
れば更に植物についての理解が深まり,もっと興味が増すことであろう。和名を見ると
き,その横にある学名にも注意を払うと良い。

[種小名再掲]
 生物の学名を二名法で表す際、属名に続く第2語で、その種を示す特徴を表す語。ラ
テン語で、形容詞又は関係する地名・人名・土語などを形容詞化した形を用いる。
 例 Homo sapiens(ヒト)のsapiensの類
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