36 植物の世界「植物プランクトンの分布」
 
          植物の世界「植物プランクトンの分布」
 
                      参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
 
 植物プランクトンは,水中に浮遊して生活を営んでいる微小な植物です。群体を形成
するものもいますが,基本的には単細胞性の生物と考えて良い。そのサイズや外観は多
様です。バクテリアと殆ど変わらない1マイクロメートル前後のものから500マイクロメートル(0.5o)に
達するものもいます。珪酸ケイサン質や炭酸カルシウムで出来た硬い外骨格で細胞が覆われ
ていて,多数の細長い刺状の構造(浮力を増すための構造と考えられています)を持つ
ものや,鞭毛ベンモウによって盛んに泳ぎ回るものもいます。細胞の中の葉緑体の色調の違
いは,植物プランクトンを見分ける大きな特徴の一つと云えるでしょう。葉緑体に含ま
れる光合成色素の種類や組成の相違から,紅,黄,緑,藍アイ色などの様々な色の植物プ
ランクトンが存在します。
 
 海は一つの繋がりですから,基本的には植物プランクトンの分布域が限定されること
はありません。深海などの光の乏しい環境を除いて,沿岸から外洋のあらゆる環境に植
物プランクトンは生育します。ときとして,港や湾の海水が茶色や緑色に見えることが
あります。これは植物プランクトンが大発生することで生ずるもので,赤潮と呼ばれて
います。魚介類や人間に有毒な物質を作る植物プランクトンもいるため問題となってい
ます。しかし,本質的には植物プランクトンは基礎生産者として他の海洋生物を支える
重要な生物なのです。植物プランクトンには,炭水化物,蛋白質,脂肪,ビタミンなど
の栄養素がバランスよく豊富に含まれています。最近,話題となっています高度不飽和
脂肪酸のEPAやDHA含量の高い植物プランクトンも発見されています。植物プランクトン
は海洋の複雑な食物連鎖系を介してわれわれの食卓を支えているのです。
 
△生育を規定する環境因子
 植物プランクトンの生育は,様々な環境因子(温度,照度,塩濃度,栄養素など)や
生物間の相互作用によって支配されることが知られています。植物プランクトン群集の
構成種は海域によって異なりますし,季節的にも変動します。こうした違いは環境因子
への適応能力や増殖能力が種毎に異なるために生じると考えられています。過去の植物
プランクトンの分布調査は,細胞が外骨格で覆われた種や赤潮を発生させる種を中心に
行われて来ました。こうした研究に拠りますと,沿岸域或いは親潮の影響下にある海水
温度の低い海域においては珪藻ケイソウ類が優占し,外洋や黒潮の影響下にある海水温度の
高い海域においてはハプト藻の円石藻エンセキソウや渦鞭毛藻ウズベンモウソウが優占すると云われ
ています。また日本沿岸の富栄養化した海域においては,珪藻,ラフィド藻,渦鞭毛藻
などによる赤潮の発生が確認されています。
 
 しかし,近年の植物プランクトンの採取法と培養技術の向上,そしてフローサイトメ
トリー(人工的に作った水流にレーザー光線を当て,水中の細胞から出た蛍光や散乱光
を検出する装置)による天然群集の解析技術などの向上に伴い,壊れやすかったりサイ
ズが微小であるような植物プランクトンをも検出出来るようになりました。例えば原核
緑藻ゲンカクリョクソウ類のプロクロロコックス属(細胞が0.6〜0.8マイクロメートルの極微小植物プラ
ンクトン)は,フローサイトメトリーで初めて存在が明らかにされ,藍藻ランソウ類のシネ
ココックス属の種などと共に,海洋の基礎生産者として重要な役割を果たすことが示唆
されています。
 
 種々の培養法を適用することによって,赤潮の中からその他の多様な植物プランクト
ンを検出出来るようにもなりました。また光合成を行いながらバクテリアや他の植物プ
ランクトンを摂取して栄養源とする動物的な植物プランクトンの存在が明らかにされた
のも,培養技術の進歩に負うところが大きい。今後,植物プランクトンの分布に関する
知見は,益々増えて行くものと思われます。

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